「やせれば美人」は「やせないからこそ美人」!? 妻のダイエットに寄り添う夫が、客観的に淡々と、しかし愛情に満ちた眼差しで語る

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/16


『やせれば美人』(高橋秀実/PHP研究所)

 この時期、年末年始の暴飲暴食で体重が増えたまま、なかなか元に戻らず苦労している人も多いのではないだろうか。年が明けたらダイエットをしようと思っていても、飲み会があったり、忙しい日々のストレスで暴飲暴食を繰り返してしまったり。若い頃はダイエットをすればすぐに痩せたのに、今は現状維持で精一杯。それでも、あと少し痩せたいと思っている人は、男女を問わず多いと思う。

 もちろん、健康に支障をきたしているなら、ある程度は体重を減らすべきだろう。しかし、痩せることで本当に美しく幸せになれるのだろうか? 何らかの方法で理想体重に到達した自分が、今より幸せなのだろうか? 何だか痩せられない自分を正当化しようとしているような気もするが、そんなモヤモヤを感じている人には、『やせれば美人』(高橋秀実/PHP研究所)をオススメしたい。

妻はデブである。
結婚前はデブでなかったが、結婚してからデブになった。

 冒頭から衝撃的だ。しかし、夫は妻を否定しているわけではない。妻が太っていることは認めているが、毎日のように「ダイエットしなきゃ」と焦りながらも、10年で30キロ増量した妻に驚きを隠せないだけ。周囲の友人も心配するほどなので、相当な変化だったのだろう。

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 事の発端は、ある年の年末。妻が突然苦しみ出し、救急車を呼ぶ事態となった。しかし病院では異常なしと診断され、納得がいかずに質問を続けると、医師から太りすぎを指摘されてしまう。これを機に、妻はダイエットを決心する…。

 ここから、実際に妻が行った様々なダイエットが語られるのだが、面白いのは妻のコメント(言い訳!?)だ。

 例えば、少し体を動かしてはどうかと提案すると、「体を動かせばその分お腹が減ってしまい、食事代がかさむ。生活全体に無駄のないダイエットをしている」と反論し、さらには「努力しないで痩せたい」とまで。なぜなら、努力には“美”がないから。ダイエットを決心して早々にこんなやり取りがあり、夫は前途多難であることを悟るのだ。

 またある時には、レストランでかなり立派な体格の女性が食事をしているのを見た妻が、「もしかして私もあのくらい?」と夫に聞く。夫は正直に「顔以外は似ている」と伝えるのだが…それに対して妻は、「隣に並んでいないから分からない」と言ってのける。その時に窓に映った妻の顔は、満月のようだったとか。

 こんな調子で、ダイエットに積極的なのか消極的なのか分からない妻だが、夫は常に協力的だ。痩身マッサージをしてあげたり、ダイエットの参考になればと経験者に話を聞いたり。夫自身は、妻に痩せてほしいと強く思っているわけではないようだが、すべては「ダイエットしなきゃ」と言った妻のためなのだ。妻の言動を客観的に分析しつつも温かく見守る夫と、「痩せたい」と言いながら理由をつけてはダイエットを断念する妻のやり取りは、息の合ったお笑いコンビのようですらある。

 本書は、過去に執筆された内容に10年後の妻の様子が追記されているのだが、夫の結論は「50歳を過ぎて変わらないのは奇跡」「痩せても美人は、痩せないからこそ美人」。これから結婚相手を見つける男性には、自信を持って「やせれば美人」をオススメしたいとのことだ。この10年そうだったように今後何十年も、「ダイエットしなきゃ」と言いながら、本気なのか疑問を感じさせるような言動を繰り返す妻に寄り添っていくのだろう。

 著者の妻のように、痩せたいと思いつつ、なかなかダイエットに踏み切れない、またはダイエットが続かない方は、共感できる部分が多くあると思う。家族や身近な人に、この妻のような人がいる場合は、ぜひとも本書の夫のように、その状況を楽しみながら、温かい眼差しで見守ってあげてほしい。太っていても痩せていても、本当に大切なのは内面なのだから。

文=松澤友子