不条理を描く作家フランツ・カフカの難解な名作『断食芸人』が日本を舞台によみがえる!

映画

公開日:2016/1/23


 20世紀の文学を代表する作家フランツ・カフカの短編小説『断食芸人』をもとにした映画が2016年2月27日(土)より、全国で順次公開されることが決定した。「正直、断食芸人という文字列には震えを覚えます」という声も上がるほどの名作の映画化に、注目が集まっている。

 原作者は、『変身』や『審判』などの作品で有名なフランツ・カフカ。1883年にプラハのユダヤ人家庭に生まれ、1924年に40歳という若さでなくなったカフカは、幻想的な作風を特徴とし、“不条理を描く作家”として有名。また彼の作品には難解なものが多く、そのなかでも『断食芸人』は読むものそれぞれに異なる意見が出る作品だ。

 主人公は、見世物として“断食”をし続ける男。彼は格子のついた檻のなかで、藁のうえにじっと座り、興業期間の40日間を断食し続ける。自分の芸に誇りを持つ男は、見張りが厳しいほど喜び、40日よりも長い断食を強く望んでいた。しかし、かつてはこの見世物を一目見ようと大勢の人が集まっていたが、次第に人々から興味を示されなくなってしまう。それでも男は断食を続ける…。

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 その結末、そして生きるための食を拒否する行為がテーマになっている点など、「生」という明確な題材が提供されてはいるが、断食芸人の最後の言葉など細かな点が読者の間で議論の的となっており、「カフカの断食芸人を映画化ってニュース見てビックリ!」「アレ原作そのままじゃどうにもならないと思うんだけど」というツイートも。

 そんな様々な解釈を可能とする同作品が、現代日本を舞台に映画化される。注目の監督は、ピンク映画脚本を量産後、パレスチナ革命に身を投じたという異例の経歴をもつ“アングラの旗手”こと、足立正生。「幽閉者 テロリスト」から9年ぶりとなる復帰作に、「というか、いま気づいたのですが、断食芸人の映画化の監督、足立正生先生だ…」、「断食芸人楽しみだわー。ポスターもカッコいいよ足立監督!」と、アングラ界隈から喜びの声が上がる。

 主人公の断食男を演じるのは、「それでもボクはやってない」や「ジョーカー・ゲーム」に出演した、実力派俳優の山本浩司。また、舞台経験が多く、世界でも高い評価を得ている桜井大造や、流山児祥、伊藤弘子など、前衛演劇のベテラン勢が脇を固める。

 日本を代表する写真家で、同作のメインビジュアルなどを撮影した荒木経惟の「ここんとこ日本の映画は家族ものでぶったるんでるから、ここらでいっぱつ血煙をあげてくれないとね。そうとうおもしろいね、この映画」というコメントどおり、予告編も不穏で禍々しく、それでいてシュールだ。

 俳優の井浦新も「自由に断食することさえ許されない社会のなかで、虚空を見つめる彼の眼には何が写っていたのだろう。己の生命を枯渇させながら力一杯踏ん張り、自らが生み出したものを口にした時の満足げな彼の顔は、どの誰よりも生き生きと輝いていた。そして、足立監督にしかできないユーモアとイロニーが心に突き刺さった」とコメント。76歳をむかえてもなお衰えていない足立の監督ぶりを絶賛している。

 「いろんな解釈のあるカフカの短編の中でも、笑い飛ばせる落語のような話、イージーなユーモアではないが、2015年に起こった事を明確にできると思った。大いに楽しんで作った」と語る足立。彼がつくる、現実と幻想を超えたグロテスクな世界に迷い込んでみるのも一興かもしれない。

映画「断食芸人」
公開予定日:2016年2月27日(土)
原作:フランツ・カフカ
監督:足立正生
キャスト:山本浩司、流山児祥、桜井大造、伊藤弘子、井端珠里ほか
⇒映画「断食芸人」公式サイト


■『変身・断食芸人
著:フランツ・カフカ
訳:山下肇/山下萬里
価格:518円(税込)
発売日:2004年9月16日(木)
出版社:岩波書店