不安、憂鬱、全部吹っ飛べ! どんづまりの田舎町で暮らす女子高生の小さな希望とは? 

マンガ

公開日:2016/1/27


『さよならガールフレンド』(高野雀/祥伝社)

 出口の見えない息苦しい毎日から自分を救ってくれたものは、誰かの些細な一言や、意外な人との出会いだった……なんてことはないだろうか? 進路や仕事や恋愛や人間関係など、人生は実に様々な問題が起こり続ける。八方塞がりになることも、そう珍しいことではない。だが、息のつまりそうな不安な日々の中でも、うっすらとした光を見つけることができれば、こっちの勝ちだ。状況は変わらずとも、やっかいな物事は急速に別の色を帯び始め、新たな一歩を踏み出す、大きな力を与えてくれることがある。

 高野雀の『さよならガールフレンド』(祥伝社)は、まさにそんな息苦しい毎日に、小さな穴を開け、新しい息吹を吹き込んでくれるマンガだ。

 特に表題作である、田舎出身者の心を揺さぶってやまない「さよならガールフレンド」には驚嘆させられた。

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 この物語の舞台は、セミと緑がうるさい、どんづまりの小さな田舎町。主人公は、噂話ばかりが先走る町で、息苦しさを抱えながら受験勉強をしている女子高生のちほだ。

 彼女の母親は、何年住んでもこの町で「よそもの」扱いされることにうんざりしており、ちほには東京の大学を受験してほしいと望んでいる。だが、会えばすぐにセックスしたがるちほの彼氏や、噂話しか娯楽のない友人たちは、地元に残るつもりで、毎日それなりに楽しく過ごしていた。

 そんなある日、ちほはひょんなことから、彼氏が浮気していることを知る。相手の女性は背が小さくて、金髪で、目元がガッツリ盛られている、誰とでもやらせることで有名な「ビッチ先輩」と呼ばれているヤンキーだった。狭い町のため、ちほはビッチ先輩と度々遭遇してしまい、少しずつ話をするようになっていく。

 最初は浮気相手と思って警戒したものの、優しい雰囲気をまとい、明け透けだが、この町を一歩引いた目線で語るビッチ先輩に、ちほは徐々に惹かれていく――。

 ごうごうと煙を吐く、夜の工場のネオンのそばで。郊外のコンビニで。2人は、原付で移動し、たくさんの話をする。

「バカにはバカのことがよく分かんだよ」と、会えばすぐにやりたがるちほの彼氏の心の内をビッチ先輩が解き明かすこともあれば、また逆にちほが先輩に、誰とでもやらせることをやめるように説得することもあり、2人は距離を縮めていった。

 やがてちほは東京の大学に合格する。喜ぶビッチ先輩に、ちほは泣きながらこんなことを告げるシーンがある。

「わたしが男子だったら先輩とは絶対にやりません」

 そしてその後に、

そうして何も出来ずにひっそりずっと好きでいる

 と、心の中でつぶやいた。

 ちほにとって、「どんづまりの小さな町」は、狭すぎて、息苦しくて、今にも呑み込まれそうな、ねっとりとした緑のカンゴクでしかなかった。しかし、ちほはビッチ先輩との出会いにより、田舎町は少しだけ、呼吸しやすい場所に姿を変えていったのだ。

 本書には他にも、思い出をチクチク刺激し、心に爪あとを残していく短編が5編収録されている。若い服が似合わなくなるアラサー女子の葛藤が描かれた「面影サンセット」、のび太と呼ばれる男子中学生の家に、特に接点のないクラスメイトの女子が同居することになる「エイリアン/サマー」など。彼らはみな、希望に出会う。それはまるで暗闇に、小さな星が浮かぶように。鬱々とした悩みや葛藤に、爽やかな風が吹きぬけるような物語だ。ぜひ読んでみてほしい。

文=さゆ