衝動的・感情的・危険を顧みない…10代が暴走する理由は「未熟な脳」にあった

出産・子育て

公開日:2016/1/28


『10代の脳 反抗期と思春期の子どもにどう対処するか』(フランシス・ジェンセン、エイミー・エリス・ナット:著、Frances E. Jensen, Amy Ellis Nutt:原著、野中香方子:翻訳、渡辺久子:解説/文藝春秋)

 盗んだバイクで走り出したり、夜の校舎の窓ガラスを壊してまわったりする。実際に、10代のわが子がそんな暴走をしでかしたら、たとえ「自由が欲しかったから」と理由を主張しても、「若気の至り」で済ますことはできないだろう。親としてのあなたは激怒するだろうか。「こんな子じゃなかったのに」と落胆するかもしれない。「後先も考えないで」「一人前の大人になれない」と、説教をする人もいるだろう。

 10代特有ともされる衝動的で感情的な言動は、これまで「ホルモンの過剰放出」や「個性獲得のための発達過程」など、いくつかの要因のせいにされてきた。しかしながら、脳の成長は幼稚園に入る頃にはほぼ完了するため、それらの要因があったとしても暴走を制御できないのは個人の力不足だという見方もあった。

 ところが、『10代の脳 反抗期と思春期の子どもにどう対処するか』(フランシス・ジェンセン、エイミー・エリス・ナット:著、野中香方子:翻訳、渡辺久子:解説/文藝春秋)は、この10年ほどで10代の脳の研究が進んだ結果、脳の成長は幼稚園どころか、10代でも未熟であることがわかったと紹介している。本書によると、脳は30歳になったくらいでやっと完成する。“完成した脳”を持つと思われていた10代は、“未完成の脳”に翻弄され続けてきたというのだ。

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 脳の活性的な領域は、小児期から青年期を通じて、後方から前方へとゆっくりと広がり、最後に前頭葉とつながる。10代での領域の広がりは全体の80%ほど。数字上では、ほぼ完成しているようにも思えるが、不活性な残りの20%に含まれる前頭葉こそが、衝動性や感情などを左右する。前頭葉が、イライラしたりカッとしたりする感情、集中力、根気、対人力、ドラッグやアルコールなどの誘惑への抵抗力、危険行動の回避力を司っているのだ。

 たとえば、大学生がプールで溺死したニュースがテレビで流れるとする。親子でその報道を見たら、親としてはわが子にこう言い聞かせるかもしれない。「こうならないように、よく考えて行動しなさい」と。もしかしたら、「あなたは、こんなことは絶対しないわよね」と釘を刺すかもしれない。

 しかし、本書は、こういった言葉がけは衝動的かつ感情的な「10代の脳」にとってはあまり意味がないと述べている。では、どうすればいいのか。わが子の心に届くように、本当の話と本当の結末を、何度も語り聞かせるしかないという。これが、10代の脳との関わり方と割り切るしかないのだ。

 ダイエットの難しさはよく語られるが、人はなぜ高カロリー食品を摂りたがるのか。それは、高カロリー食品は生存の可能性を高めると脳が知っており、大量のドーパミンを放出させるからだという。ギャンブルやセックスについても同様で、人が求めるのは甘味や金銭、オーガズムではなく、実はドーパミンなのだ。大人は前頭葉が発達しており、ドーパミンという報酬とリスクを天秤にかけて考えることができる。しかし、10代の脳では事情が違う。

 本書では、8歳の子どもと20歳の若者に行った「抑制性」の実験が紹介されている。実験の内容は、「何かを“しない”という判断」をくだすまでの時間を測るというもの。つまり、ドーパミンへの渇望をどれだけ抑えられるかの実験なのだが、意外なことに、8歳の子どもより20歳の若者のほうが、抑制性が低いことがわかったという。脳には「興奮性」のつながりと、興奮を抑える「抑制性」のつながりとがあるが、10代では脳の成長のカギともなる「興奮性」のつながりが急速に増えていく一方で、「抑制性」のつながりは停滞する。結果、8歳の子ども以上に抑制がききづらくなり、ドーパミンを求めてリスク無視で暴走しがちになるのだ。

 10代の脳は、感情を抑制する前頭葉という“ガード”が外れた暴走列車のようなもの。本人が理性的に努めても、衝動的・感情的な言動をとってしまうことがある。これは、脳の構造上しかたがないことだという。親は、こうした10代の脳を理解することで、「わが子がまったくの別人になってしまった」と嘆かず、冷静に向き合えるはずだと希望を見出している。

文=ルートつつみ