似ている? それとも全然違う? 人間と動物の脳

科学

公開日:2016/2/2


『ペットは人間をどう見ているのか?イヌは?ネコは?鳥は?』(支倉槇人/技術評論社)

 日本では現在、3分の1を超える世帯でイヌ・ネコを中心とするペットが飼育されているといいます。それほどまでに、私達の生活に身近な存在となっているペットですが、彼等が何を思って人間と生活しているのか、興味を持っている人も多いのではないでしょうか。イヌ・ネコ・鳥などのペットが、どのような世界を見て生活しているのかを考察したのが『ペットは人間をどう見ているのか?イヌは?ネコは?鳥は?』(支倉槇人/技術評論社)です。今回は、ペットのそれぞれの脳の構造を中心に見ていきましょう。

 少々専門的な用語になりますが、脳の重さを表す数値に脳化指数というものがあります。この数値が高いほど脳が重く、知能が高いという事になります。都会においては代表的な鳥であるカラスの脳化指数は2.1で、これは普通のサル(2.0)とほぼ同じ数値です。飼育下にあるオウム・インコ類も、カラスに近い数値を持っているとされます(ただし、ニワトリやハトは0.3~0.4程度であるとされ、同じ鳥類であってもかなりバラつきがあります)。一部の鳥が、サルと互角の知能を持っているとはいささか驚きですね。また、イヌやネコの脳化指数はおよそ1.5~1.8とされており、サルには及ばないまでもそれに近い知能を持っている事になりますね。ちなみに、人間に最も近いサルと言われるチンパンジーの脳化指数が4.3で、私達人間の脳化指数は10.0とされます。

 前述の通り、イヌ・ネコ・鳥(の一部)の脳化指数は意外にも高く、また人間の脳とよく似た働きを数多く持っています。そのうちの1つが記憶です。人間は、数秒間しか記憶しない感覚記憶と、それよりも少しだけ長く覚えている短期記憶、そしてずっと覚えている長期記憶の3種類の記憶パターンを使い分けて生活しています。そして、イヌ・ネコ・鳥にも、この3種類の記憶パターンが存在します。しかし、動物達は人間ほど細かい部分まで覚えてはいません。動物が記憶するのは、あくまで生きる為に必要な事だけだと長らく言われてきたのですが、人間と生活を共にしているペットの場合、そうとも言い切れない事が近年解かってきました。ペットの場合、うれしかった事・嫌だった事なども強く記憶に残るようなのです。うれしかった・嫌だったなどという事はあくまで物事に対する感想であって、生存には何ら関わり無いものです(安全だった・危険だったという経験ならば別ですが)。ペットがそれを記憶するようになったという事に、人間との距離が縮まったように感じると著者は述べています。

advertisement

 動物は、人間の気持ちを察する事ができるのか?……動物好きならば、一度は考えた事があるだろうこの疑問ですが、答えはやはり種や個体による、と言わざるをえません。例えばイヌの場合ですが、イヌは元々群れで生活していたので、周囲の感情・思考を読み取る能力も高く、また相手が自分の感情等を読み取ってくれる事を前提にボディランゲージを行います。指示があれば応えようとしますし、相手の感情を理解しようとする思考も存在します。つまり、イヌに限って言えば、人間の気持ちを察する能力がある程度備わっていると言えるでしょう。

 一方で、単体で生息するネコの場合、相手の感情・思考を読む能力が(イヌ程は)必要ありませんし、仮に相手の感情をくみ取れるとしても、それに対し「応えなければ」という義務感をあまり感じないと考えられます。この為、人間側の要求に応えるかどうかはその時の気分次第となります。ネコは気まぐれだと言われる所以はまさにこれです。

 インコ・オウムの場合も、どちらかといえばネコ寄りの性質を持っています。鳥の場合、ボディランゲージ自体は行うものの、その目的が異性への求愛である為、人間とのコミュニケーションにはあまり意味を持たないのです。よって、ネコや鳥の場合、どの程度人間の気持ちを察しているかはよく解らないというのが実情です。また、生き物である以上種の差以上に個体差もあります。気難しいイヌも居れば、気安いネコや鳥も居るでしょう。かわいいペット達とどこまで通じ合えているかは、日々の生活から推し量っていくしかないのかもしれません。

文=柚兎