映画『同級生』公開間近!BLだけじゃない多彩な漫画家・中村明日美子の世界

マンガ

公開日:2016/2/7


『同級生』(中村明日美子/茜新社)

 2月20日から全国ロードショーがはじまる映画『同級生』。同作は、学年一の秀才・佐条利人と、彼と同じクラスのバンドマン・草壁光が、性別を超えて少しずつ惹かれあっていく姿を描いた恋物語です。男子高校生同士のみずみずしい恋愛を追った本作によって、ボーイズラブに目覚めた子女は数知れず……。この罪深き(?)作品の映画化は多くの人に驚きと歓喜をもたらしたとか。

 作者の中村明日美子先生は、美しく繊細なタッチで男性同士の耽美な世界や、BLラブコメを多く手がけています。その一方で、真っ直ぐな男女の恋や謎が謎を呼ぶミステリー作品などなど、さまざまなジャンルでもその手腕を発揮している漫画家でもあります。ちなみに、デビュー作の「コーヒー砂糖入り恋する窓辺」は未亡人の「奥様」が、窓辺から眺めていた少女に恋をする百合ものでした。

 そこで今回は、中村明日美子先生の“BL作品以外”にスポットライトを当ててみました!

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君曜日』(白泉社)

鉄道少女漫画』(白泉社)は小田急線を中心に繰り広げられる少年少女の恋や、乗客たちの日々を描いたオムニバス作品。その中の一作「木曜日のサバラン」のスピンオフとして、後に出版されたのが『君曜日』(白泉社)です。主人公は、セーラー服がよく似合う黒髪の女子中学生・倉木亜子。毎週木曜に「鉄道模型の会」に参加するアコに恋をした同じ塾に通う少年・小平は、彼女の声が聞きたくて、なにかとちょっかいを出してしまいます。うっとうしいと感じながらも小平の好意をムゲに出来ないアコ……。そんな2人のやりとりは青春そのもの! そして、秩父鉄道の蒸気機関車「SLパレオエクスプレス」や大井川鐵道の「SL急行」など、アコと小平の恋を見守る“鉄道”も物語の名脇役として登場します。小さな恋がはじまるまでの道のりを楽しめる作品。

 

片恋の日記少女』(白泉社)

 著者初の少女漫画作品集と銘打たれた同書には、描きおろし漫画と未発表作を全7編を収録。表題作の『片恋の日記少女』は、昨年亡くなった父親の日記を読み、毎朝同じ電車に乗る少女への恋心を知った青年・高野たかしが主人公です。男子中学生ばりに「声をかけることもしない ただただ毎朝電車で見つめるだけ それでも私には せいいっぱいの恋だった」と綴っていた、高野父の気持ちを思うと切ないやら可愛いやら……。枯れ専女子にもオススメの一作です。

ウツボラ』(太田出版)

 作家・溝呂木の元に届いた「藤乃朱」という少女の訃報。ビルから投身自殺を図った朱は、生前の美しい顔を失っていた。それから間もなくして、朱に瓜二つの双子の妹を名乗る「三木桜」が溝呂木の前に現れ、彼の新作『ウツボラ』の第二稿を手に「先生はこれが欲しかったんでしょう?」と言い放つ……。1つの死体と1つの小説がおりなすミステリーにページをめくる手が止まらない!? 中村明日美子先生ならではの妖艶な世界とサスペンスが楽しめる、著者初のサイコ・サスペンス。妖しく美しい女性に惹かれる気持ちがわかるかも?

中村明日美子コレクションIII  鶏肉倶楽部』(太田出版)

 作者の初期作品を収録した短編集。まさに中村節炸裂の独特な作品が全8編収められています。表題作の「鶏肉倶楽部」は「鳥及び鶏肉をこよなく愛する 年収一億以上を入会規約とした ブルジョワ階級向け秘密倶楽部である」と、すでに冒頭から怪しさ満点。この鶏肉倶楽部の新会員として入会した柴山繁光は、会合で渡された一つの卵を持ち帰り育てることに。無事ひよこは卵から孵り、美しい鶏へと成長するが、2人には別れのときが近づいていた……。一人と一羽の別離には、愛する鶏との濃厚すぎる一夜が描かれます。愛の形は十人十色ってこと……?

 昨年、漫画家デビュー15周年を迎えた中村明日美子先生。ジャンルに縛られない彩なストーリー もまた、長年読者を虜にしている理由なのかもしれません。

文=不動明子(清談社)