『私は絶対許さない 15歳で集団レイプされた少女が風俗嬢になり、さらに看護師になった理由』の著者が語る加害者への復讐の方法

社会

更新日:2016/8/22


『私は絶対許さない 15歳で集団レイプされた少女が風俗嬢になり、さらに看護師になった理由』(雪村葉子/ブックマン社)

 フリルがついた白ブラウスの間から、ゴールドのネックレスがきらりと光る。長く伸びた黒髪の間から丸い瞳が覗くも、視線を合わせることをためらっているように感じる。その柔らかで優しげな表情と、下着が見えそうなほど短い黒スカートがどこかアンバランスな印象を醸していた。

 雪村葉子さんは中学3年生の時に5人の男からレイプされ、その直後ヤクザの愛人となった。高校卒業後は大学に通いながら風俗で働き、現在は看護師とSM嬢を掛け持ちしている。「15歳のあの夜から、ずっと心を殺してきた」という彼女は、自分の経験を『私は絶対許さない』(ブックマン社)という手記にまとめた。

 2時間に1本しか電車が来ない東北の片田舎の、土地持ちながらも貧しい農家に生まれた雪村さんは、地味で真面目な中学生だった。ある時無人駅で電車を待っていたら、突然現れた男たちに殴られて、車で1人の自宅にさらわれる。そして処女だったにもかかわらず、5人の男にレイプされてしまう。酒を飲みタバコを吸い、大麻らしきものを吸いながら男たちは一晩中、彼女を凄惨に輪姦し続けた。

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 隙を見て逃げ出してきたものの、待っていたのは無断外泊を責める父親からの暴力と母親からの無視、そして同級生からの嘲笑だった。以来平静を装いながらも摂食障害と自傷癖を抱え、5人を殺すことだけを考えるようになったそうだ。

「不良でもない私がなぜこんな目にと、今でも考えることがあります。レイプされてからはずっと心の中がざわついていましたが、弱さを見せることで付け込まれる方がもっと嫌だったので、『なんでもない』みたいな顔をして過ごしていました。でも時間が経って思うのは、襲われたのが私じゃなかったら耐え切れなくて、生きていなかったかもしれないということ。犯人たちを殺してやると思いながら生きることができたから、神様は私を選んだのかなって思うんです」

 レイプされて1週間も経たないうちに、雪村さんは犯人の養父・早田と愛人契約をした。ヤクザの早田に向かって言ったのは、「私を守ってくれますか?」というセリフだった。親も友達も守ってくれないなか、最初に30万円もの金を渡してくれた早田が、唯一の味方に思えたのだろうか?

「というより、どうでもいいって気持ちだったんでしょうね。交際を表に出せない相手だったので、味方ができて安心というよりも、『また隠しごとが増えちゃった。嫌だな』って思っていました。今となっては私に時間やお金を提供してくれたのは好意からだとわかりますが、その当時は、なぜ私に声をかけたのか謎でした。15歳の子供と援助交際をして、会うたびにホテルに連れていくなんて(苦笑)。ただ私が付き合うのは年の離れた男性ばかりなので、自分が理想とする父のような男性を求めていたのかもしれません」

 高校を卒業するタイミングで早田と別れ、上京してすぐに美容整形をした。そして大学生になると最初はおっぱいパブ、次は店舗型ヘルスでアルバイトを始めた。むりやりに処女を奪われ、相手を呪いながら生きてきたはずなのに、性を売ることに抵抗はなかったのだろうか?

「おっぱいパブはスカウトされたことで始めましたが、『嫌だ。やりたくない』というよりも、『こんな私でもつとまるのかな』と思っていました。なぜなら『結局男は女の穴に排泄したいだけだし、自分の体はお金になる』と、すでに悟っていたからです。だったら体を提供する代わりに、お金を頂こうと。……お金の力はすごいですよね。すべてではないけれど、人を変える魔力があると思います。整形をしたのは変わりたい気持ちと、自分をいじめたい気持ちからでした。今思うと、大掛かりな自傷行為だったのかもしれません。結局ほとんど元の姿から変わりませんでしたけど(苦笑)」

 その後雪村さんは、パブの客だった男性と結婚。20歳離れた彼は会社を経営する資産家だが、結婚生活は愛に満ちたものではないと語る。不仲だった両親に育てられたことが影響しているのか、夫婦愛がわからないからだ。しかしそれ以上に、夫が着る洋服から行動までを支配しようとし、かつ幼女に興奮する性癖から、剃毛を強要するようになったことも大きい。だがずっと「セックスは気持ちが悪いもの」と思っていたのに、夫とのセックスで、オーガズムを得られるようになった。それは15歳の自分から軽蔑のまなざしを向けられるほど苦しく、罪悪感を覚えるものだったが、いつしか「セックスで快感を得て幸せになることも、加害者への復讐のひとつだ」と思うようになったそうだ。

「私は自分に無関心な両親に育てられたこともあり、人を愛する気持ちがわからないんです。夫には感謝していますが、愛しているかと問われたらわからない。父親はもう亡くなりましたが、母親とは『いつかわかり合えるかも』という気持ちもありました。でも今は、無理なものは無理だと悟っています。娘が性犯罪に巻き込まれたなんて、田舎ではタブーだったのでしょう。体面を取り繕うのに必死だったのだろうと理解していますが、もう関わりたくはない。犯人たちへの憎しみの気持ちはありますが、今から訴えても時効だし、最低の連中のことばかりを考えていても仕方がありませんよね。だったら私はオーガズムを得て、男たちを私の体なしでは生きられないようにするのも、立派な復讐なのではと思ったんです。もちろん、許す気なんて一切ありません」

 現在は看護師の資格を取り、子供の頃からの夢だった看護師と、SM嬢を両立している。もちろんSM嬢の方は、夫には内緒だ。看護も風俗も相手の体を受け止める仕事にもかかわらず、何倍もの賃金格差がある。その違いに驚嘆しながらも、どちらも大事な仕事だと胸を張る。

「子供の頃からきょうだいの面倒を見てきたし、どこの学校にも給食を食べるのが遅くて、勉強もできない男子っていたじゃないですか? そういう子に『大丈夫?』って世話を焼くのが好きだったせいか、教師や看護師に憧れていたんです。SMは他の風俗と少し違っていて、子供の頃に厳しくされたのがきっかけでMになった方とか、トラウマを抱えているお客さまが結構来るんです。看護師も女王様も相手の心に寄り添って、表に出せない姿を受け止める点は同じかな。私は親に罵倒されて育ったので、誰かに必要とされると嬉しくて。結婚もしているし、経済的にも看護師だけで十分だと思うかもしれません。でも夫はもう50代半ばなので、以前のように積極的にセックスすることができません。私は夫によって性の快楽を知ってしまったから、後戻りができないんです」

 とはいえ雪村さんは30代半ばになり、風俗はこの先長くは続けられないと思っている。過去をカミングアウトしたことを機に、これからはレイプ被害に苦しむ女性たちに向けて、言葉を発していきたいと考えている。もちろん、相手を許す必要などないことも言い添えるつもりだ。

「レイプされた女性は『なんでもない』と思い込んでしまったり、人間不信に陥ったり、私のように性を仕事にする人もいます。でも苦しみを抱えているのは皆一緒です。そんな女性たちに『忘れろと言うのではなく、つまらないことにとらわれて立ち止まるな。相手を許さないまま自分の道を突き進め。何がなんでも生き残って誰よりも幸せになれ。それが復讐だ』って伝えたいんです。私は周りにばれて噂になりましたが、誰にも知られなくても心の中で苦しんでいる人もいるはずなので、私みたいな女がいることを知ってもらえれば、少し楽になるのではないかと思うんです。……自分が15の時、こういうことを言ってくれる人が周りにいたら、その後の生き方は違っていたかもしれない。だから私が誰かの、頼りになる大人になれたらって気持ちがあるんです」

 同書の前書きによると、2013年に警察に届け出があった性暴力被害のうちレイプ被害は約1400件。内閣府によると、レイプ被害を警察に相談した数はわずか3.7パーセントにとどまっている。被害者が言わない、声を出せないだけで、決して特殊な犯罪ではないのだ。

 もちろんすべての責任は加害者にある。その証拠なのか、担当編集者によると同書は男性刑務所からの注文がとても多いそうだ。自分が犯した女が書いているのを確かめたいのか、自責の念からなのか、単なる好奇心なのかまでは、残念ながらわからない。しかしレイプが重大な犯罪であることを誰もが理解するために、被害当事者の声を聞くことは、何よりも大きなきっかけになるだろう。

取材・文=玖保樹 鈴