里親制度で待望の赤ちゃんを預かった漫画家の不安とは? 『うちの子になりなよ』でその子育てを綴る

出産・子育て

公開日:2016/2/9


『うちの子になりなよ(ある漫画家の里親入門) 』(古泉智浩/イースト・プレス)

 立とう、立とうと必死な赤ちゃんを、体を支えて立たせてあげたら、誇らしげに笑ったこと。赤ちゃんを笑わせるのが何より楽しくて、部屋の戸の裏に隠れては飛び出したりしていること。ズリハイしている赤ちゃんに「こっちにおいで」と両手を差し出すと、自分のもとまで寄ってきてくれて、嬉しくて抱き上げてしまったこと……。

うちの子になりなよ(ある漫画家の里親入門)』(古泉智浩/イースト・プレス)に書かれた赤ちゃんの成長記録は、微笑ましい子育て日記そのものだ。だが書籍のタイトルにあるように、その子は里親制度を通じて漫画家の著者が預かり、育てている赤ちゃんである。

 読んでいる我々は、その光景の微笑ましさに、この子が里親の子どもだということを時に忘れてしまう。それは作者が赤ちゃんへ注ぐ愛の深さゆえだろうが、ときどき「うちに来て3か月。嬉しい気持ちがいつまで続くのか半信半疑で、減ってしまうことが心配でならない。いまのところ大丈夫で、逆に折れ線グラフで言うと右上に向かい続けている」というような心情描写が現れて、読んでいるこちらはドキッとする。

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 このように古泉氏の文章は率直、正直なのだが、どこか抜けている感じがするのも面白い。

 古泉氏は、ティッシュペーパーを引きちぎる赤ちゃんを見て、シュワルツェネッガーが怪力で手錠を引きちぎる場面を想像する。赤ちゃんが手をグーにしたとき、人差し指と中指の間から親指を出す「気まずい形」になりがちなことを心配もする。ちなみに赤ちゃんは、テレビに映った『ランボー』のスタローンや、錦織圭、羽生結弦に強い興味を示しいていたそうだ。何だその全くの共通点のなさは!

 なお本書の後半4分の1ほどでは、古泉氏夫妻が里親制度を利用するに至った経緯が、それ以前の不妊治療の過程などから率直に書かれており、里親制度の基礎的な内容も説明されている。

 本書に書かれている「里子はあくまで親権が実親にあり、苗字も実親のもの」「『あなたはお母さんが産んだ子供ではない』と告げることを真実告知と言い、その多大なショックを和らげるため、物心ついた頃からそれとなく伝えることが推奨されている」などのことは、知らない人も多いはずだ。

「里親入門」と聞くと何だか重いテーマの本のような印象だが、本書は随所に古泉氏のマンガが挟まれている点も含め、誰でも気兼ねなく読み進められる内容だ。里親制度に特に興味がないという人も、子育て日記を読むつもりで一度手にとってみてほしい。

文=古澤誠一郎