夫婦関係、仕事、趣味…充実した日々を崩してまで出産する意味はあるのか

出産・子育て

公開日:2016/2/12


『産まなくてもいいですか?』(小林裕美子/幻冬舎)

 「子どもとか、まだ考えてないの?」

 結婚2年目にして、幾度となく投げかけられる言葉。だけど、結婚したら当然のように子どもを産むというのも、……どうなの? 「心から欲しいと思えない私は女失格なのだろうか」。

産まなくてもいいですか?』(小林裕美子/幻冬舎)は、そんな女子の悩みをリアルに、そして丁寧に描いたコミックエッセイだ。

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 主人公のチホは31歳。結婚2年目で、そろそろ妊娠・出産を本格的に考え始める時期に来ている。しかし、彼女は悩んでいる。「産む」とも「産まない」とも決めきれないのだ。

 昔は、結婚をしたら子どもを産むというのは、当然のルールというか、暗黙の了解というか、疑いようもなく、「そうすべきだ」と考えられていた節がある。しかし、今はどうなのだろう。

「完全な専業主婦」が少なくなりつつある昨今。女性の社会進出が進み、働き方も変化してきている。経済的な面でも、社会的な面でも、女性を取り巻く環境はめまぐるしく変わってきている。

 そんな中、人生を大きく変えてしまうかもしれない「妊娠・出産」という女性の一生の選択を、悩む女性が増えてきてもおかしくないだろう。

 主人公のチホは、バリバリのキャリアウーマンで、仕事のために「子どもを産まない」と決心しているわけではない(仕事はしているが)。ただ、子どもを産んだことで、人生が大きく変化してしまうことに不安があり、その不安の大きさが「男女平等ではない」ことに、ちょっとした不満を抱いている。

 女性にとって出産は命がけで、いくらパートナーが手伝ってくれるとはいえ、女性が主軸となり子育てに関わることになる。そうなると、仕事もセーブしなくてはいけない。

「がらっと人生設計が変わってしまうくらいなのに」
「男性は今までの生活を変えずに赤ちゃんが増えて楽しいくらいの感じなのかな」
「なんかフェアじゃない」

 今の良好な夫婦関係と、仕事に趣味に、充実した日々を崩してまで、赤ちゃんを産む必要があるだろうかと、チホは悩む。

 その後、チホは赤ちゃんを持っている妹や、友人、母親の話を聞いたり、反対に、「子どもは産まない」と決めている既婚女性の意見を聞いたりする。正解のないことなので、どの人の話も良い面と悪い面(幸せなことと、つらいこと)があるのを知る。

 様々な立場の女性の話を聞き、チホはこう思う。

「新しい命を産み出すという一大事をなんの自覚もなくやりのけてしまいたくはない」
「周りが産んでいるから産む、産まないから私も産まないではなく、私はどうしたいのか、私たちはどうしたいのか、一度ちゃんと考えてみよう」

 と、仕事環境や周囲の意見に流されるのではなく、確固とした意志を持とうと決める。

 結論から言えば、このコミックエッセイで、結局チホが子どもを産んだのか、産まなかったのかは分からない。

 この問題の難しいところは、「女性一人の問題ではないが、産んで、(主に)育てるのは女性」というところにあるだろう。生活環境が一変してしまう度合いは、どうしても女性の方が大きい。しかし、パートナーは子どもが欲しいと思っていたら……相手のことも考えると、さらに悩みは深くなる。

 チホは「時間を置き、再度考えてみる」という結論を出しているが、これは一つの方法だと思う。自分を取り巻く環境が変化したり、何かしらのきっかけがあったりすれば「今は欲しくない」が「欲しい」に変化することもあり得ることだ。「環境が気持ちを左右することってあると思う」とチホが言うように、女性にとってこの問題はとても繊細なものだと思う。タイムリミットのあることだが、様々な人の意見に耳を傾けながら、熟考することが必要なのかもしれない。

文=雨野裾