法廷に吹き荒れるペテンと策略の嵐! “悪魔の弁護人”が導き出す真実とは!?

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/16


『無法の弁護人 法廷のペテン師』(師走トオル/KADOKAWA)
『無法の弁護人 法廷のペテン師』(師走トオル/KADOKAWA)

もしも、謂れのない罪で逮捕され、裁判にかけられるとしたら――どんな弁護人に、誰に依頼すればいいのだろうか? 答えは一択、「絶対に裁判に勝てる人」だ。自分を信じ、無罪を勝ち取ってくれるなら、ふざけた人物であろうと、汚い手を使おうと構わない。だから私は――“悪魔の弁護人・阿武隈護”を推薦する。

無法の弁護人 法廷のペテン師』(師走トオル/KADOKAWA)は、型破りで掟破りな法曹界の鼻つまみ者・阿武隈護と、くそ真面目だが腕のない新人弁護士・本多繁信のコンビが、勝訴困難な裁判に挑む“法廷ドラマ”だ。

物語は、新人弁護士の本多が、とある刑事裁判で負けそうになったところから始まる。依頼人女性の無実を信じながら、裁判を覆す術を持たない本多は、軒先のボスから一人の豪腕弁護士を紹介される。それが、“悪魔の弁護人”阿武隈だ。

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自称“正義の弁護人”は、キャバクラを根城にし、手続きや事務は他人任せ、朝に弱く、誰かが起こさなければ裁判にも3分の2の割合で遅刻し、言葉遣いは荒く、禁煙のお供にシガレットチョコをかじる。クズを絵に描いたような阿武隈の人間性に、本多は面食らう。

だが、ひとたび法廷に立った阿武隈は頼もしいヒーローに変わる。舞台役者のごとき千変万化の弁舌と、ペテンまがいの論法やトリックを駆使して裁判員たちの心象を操り、不利な状況を逆転する。検察側の証拠や証人の信頼性を地に貶め、「合理的な疑い」を生み出し、無罪をもぎ取る。

法廷を大混乱に陥れ、陰口を叩かれながら、「裁判員たちは“法廷ドラマ”を求めているんだ」と悪びれない阿武隈には「秘密」があった。

それは、阿武隈が持つとうそぶく「人のウソを見抜く超能力」だ。会話の相手が動揺した時にウソを見極められるという、弁護士向きの能力である。

そんな阿武隈と本多が立ち向かうのは、一見、犯人が確定していそうな「女性殺害事件」の裁判。依頼人は、凶器から血液と指紋が検出され、容疑者として逮捕された男だ。無罪を訴える男を信じ救わんとする本多は、阿武隈の手を借り裁判に挑む。立ちはだかるのは検察の巧妙な法廷戦術と有罪率99%という日本の刑事裁判の壁。次第に阿武隈たちは追い詰められてゆく。

だが、阿武隈は“弁護士”ではなく“弁護人”として“悪魔の一手”を打つ。事件の真犯人を追い詰め、真相を暴き、逆転勝訴することができるのか? スピーディで息詰まる検察側と弁護側の攻防の末に、本多は何を見るのか? その結末は、あなた自身で見届けてほしい。

そして、この物語の見どころは、事件そのものよりも、正義のために禁忌に踏み込む阿武隈と本多の人間ドラマにある。カギとなるのは、真偽のほどは分からない「ウソを見抜く超能力」だ。阿武隈の言葉に、自らを“正義の弁護人”と名乗る真意が浮かぶ。

「依頼人に言えるのか? あなたが無実だと知ってますが手立てがないので20年牢屋に入ってくださいって」

本当に超能力なのかは別として、「ウソを見抜く能力」に長けているがゆえの苦しみや葛藤を悪態の裏に隠し、己の信念を貫く阿武隈の生き様は、「正義の在り方」を、本多に読者に問いかける。

2人の物語は始まったばかりだ。別れて暮らす阿武隈と娘との関係、本多の大学時代の同級生でエリート美人検事・井上との関係など、本作にちりばめられた伏線はどう展開してゆくのか。この先に2人を待つ裁判の中には、「ウソつきな罪を犯した依頼人」も現れるだろう。その時、阿武隈と本多はどう動くのか? そこで描かれる正義と、極限の人間模様を、この型破りな“法廷ドラマ”に期待したい。

文=水陶マコト

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