人材不足の介護業界 働き手確保のための一手とは

社会

公開日:2016/2/13


『介護起業』(杢野暉尚/幻冬舎)

 2010年を挟んで、人口減少社会に突入した日本。国立社会保障・人口問題研究所の統計によると、日本の人口は2048年に1億人を割り込み、9193万人に、その後10年ごとに1000万人単位で減少すると予測されている。

 人口が減れば市場規模は小さくなる。年々減っていく消費者の奪い合いが、これから始まっていくのかもしれない。とはいっても、外国人観光客の増大や出生率の増加など明るい話題もあるのだから、そう悪いことばかりではないだろうけど。

 その一方で、現在も市場が成長し続け、今後も確実に需要が増えることが明らかな産業も存在する。言わずと知れた、介護事業である。先の統計に戻ると、2013年の時点で老齢人口(65歳以上)は25.1%を数える。すでに4人に1人は高齢者という時代に突入しているのだ。これが2025年になると、30%を上回り、以降2065年までに40%前後に達すると見積もられている。

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 50年も先のことは置いとくとしても、2025年はもう10年もない近未来の話。3人に1人は高齢者って、やばくない?とは誰もが率直に感じることではないだろうか。

 今回紹介する『介護起業』(杢野暉尚/幻冬舎)は、そんな社会の高齢化が進む日本で、介護事業で起業することとは、を説いた1冊。現在の日本の状況を鑑みれば、意欲のある若者こそ介護業界に飛び込んできてほしい、という主旨の本である。

 とはいえ、社会福祉法人を束ねる著者だからこそ、介護業界を見る目は厳しく、冷静だ。単純に「介護は儲かる!」と無責任に言うのではなく、介護で起業を考えるのであれば、まずは実際に働いてみることだ、という。ラーメン屋を開業するならラーメン屋で修業するように、当たり前の提言かもしれないが、案外こうしたことを述べている本は少ないように思う。

 この本は読んですぐに起業のための実務が身につく、といった実用的な本ではない。むしろ介護業界の現実を知らない人へ伝える、伝達者としての役割を果たしている。また、実際に業界で働いている人に対しての提言としても、刺激的な内容だ。

 著者の伝えたいことの要点は、「いかに人材を確保するか」だろう。多くの介護現場がこの問題に日々悩まされている。今後も大きな課題となり続けることは、想像に難くない。

 理由は簡単だ。介護の世間一般のイメージが悪く、人が集まらないこと。そもそも高齢者の数が圧倒的に多く、必要な数が賄えないこと。それに、介護業界でのキャリアアップのイメージが湧きにくく、離職率が高いこと。これらの要因が複合的に混じり合って、人手不足は慢性的なものとなっている。

 この負のスパイラルを断ち切るために、企業や法人ができることは、キャリアアップの道筋を明確にすることだと、著者はいう。これは政府が発表している福祉人材確保のための方針とも一致する。キャリアパスを明確にすれば、将来性が明らかになり、人はもっと増えるはずだ。なぜなら、介護業界の未来は明るいのだから、というわけだ。

 実際に著者の統括する法人での、キャリアパスに関する数々の取り組みが紹介されており、現在日本全国に存在する社会福祉法人や企業は参考にできるのではないだろうか。

 これは介護起業を促す本ではない。むしろ、現在の介護業界を改革するための具体的な提案と見る方が面白い。読者は、これから介護事業を始めようという人よりも、現在介護に携わっている人だ。経営側も現場で働く人も、ぜひ読んでいただきたい本である。

文=A.Nancy