人も、魔物も、国家を敵に回しても、ひとりの少女を守りぬく熱血捜査官のハードボイルドサスペンス【ノベルゼロ】

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/16


『竜と正義 人魔調停局 捜査File.01』(扇 友太:著、天野 英:イラスト/KADOKAWA)

2016年2月15日。KADOKAWAに新しい文庫レーベル「NOVEL 0(ノベルゼロ)」が誕生した。創刊ラインナップには、杉井 光、師走トオル、三浦勇雄などの人気作家陣が並ぶが、今回はそのなかでも扇 友太の『竜と正義 人魔調停局 捜査File.01』をピックアップ! 人間と魔物が共存する社会を守るため、銃と魔法で戦う現代ハードボイルドサスペンスだ。

1200年前の【邂逅の日】。世界は幾多の異界と繋がり、さまざまな魔物が出現した。人類と魔物が激突した【黒蛇戦争】から長い時代を経て、人間と魔物は共存する社会を築き上げた。クリアト連邦共和国ロザント市に支部を置く人魔調停局の若手実働官ライル・アングレーは、人魔間の軋轢を処理し平和を維持するために、日々、社会秩序を脅かす犯罪者と戦っていた。そんなライルに、新たな指令が下される。社会加入を求める魔物集落【竜羽の里】の使者の護衛だ。ところが、護衛対象の使者クーベルネは、ドラゴン族のお姫様で、弱冠13歳の幼い少女だった。

主人公のライルは軍士官学校を首席卒業して人魔調停局に入った若きエリートだ。だが、人間であるライルは、はっきりいって弱い。同僚のキマイラや土蜘蛛、ユニコーンなど、生まれながらに強靭な肉体と人外の魔力を宿した魔物種族と比べれば、最弱といっていい。そんな種族的なハンデキャップを抱えながらも、決して挫けることなく人一倍の努力を重ねて、同僚たちと肩を並べて犯罪者に立ち向かう。弱くとも正義感の強さでは誰にも負けない、熱血硬派な青年で好感を抱ける。

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そんなライルが護衛することになったクーベルネは、魔物最強のドラゴンの姫君であり、好奇心旺盛なじゃじゃ馬娘だった。いずれの国家にも属さない辺境の魔物集落で育った彼女は、世間知らずで社会常識など知るわけもなく、型破りな言動で護衛役のライルを振り回す。この世界の魔物は、【人化術】という魔術で普段は人間の姿になって暮らしているので、見た目は普通の美少女だが、さすがのライルも女の子の扱いだけは専門外で、ほとほと困り果てる。

おまけにライルとタッグを組むユニコーンの美女アルミスは、可愛い少女が大好きな乙女趣味で、クーベルネによからぬイタズラをしないとも限らないから、余計に心労のタネが増えていく。

こんな三人組が、人間と魔物が共存する長い歴史や文化の残るロザント市を散歩している光景だけでも世界観が広がって楽しいのだ。種族の違いや意見の違いにぶつかり合いながらも、驚きや発見に満ちた異文化交流を深めていく姿が微笑ましい。

しかし楽しいことばかりでない。魔物の排斥を訴える人類至上主義者や、クリアト連邦共和国に恨みを持つ反政府派、新たに社会加入を目指す【竜羽の里】の意向を快く思わない人々が暗躍し、クーベルネの命を狙って、幾度となく刺客やテロリストが襲いかかる。なんの罪もない小さな女の子を独善的な主義主張のはけ口や、国家間の政治経済のパワーゲームの駒として扱う大人たちにライルの怒りが爆発する。

若く未熟で最弱の人間の身でありながら、強大な魔物や軍隊を相手にして、たった一人になっても、クーベルネを守りぬくために命をかけるライルの侠気あふれる生き様がシビれるほどカッコイイのだ!

本作は、第9回MF文庫Jライトノベル新人賞で最優秀賞を受賞した『MONSTER DAYS』を加筆修正、完全版としてシリーズ化した作品だ。ハードボイルドで重厚な世界観はそのままに、新しい装丁で蘇ったライルやクーベルネたちの物語を是非ご覧いただきたい。

文=愛咲優詩