急増する「受験うつ」の症状は答案用紙にあらわれる ――その時、親はどうすればいいのか

社会

公開日:2016/2/18

 受験シーズン真っ盛りである。1月のセンター試験が終わり、とりあえずホッとしている人もいれば、「2次試験で巻き返しを」と焦っている人もいるだろう。ところで、受験の際、次のような徴候があった人は、注意が必要かもしれない。

□ なぜか、図形問題で補助線が引けない

□ なぜか、記述式の問題が解答できない

□ なぜか、文章問題の大意がつかめない

 また、普段の生活で、次のような徴候がある人も、注意したほうがいいかもしれない。

□ 「うるさい!」「ほっといてくれ!」が口癖になっている

□ 突然イライラする。ときに、暴れてしまう

 じつは、これらは「受験うつ」の特徴。『受験うつ どう克服し、合格をつかむか(光文社新書)』(吉田たかよし/光文社)によると、近年、受験生の間で激増しているという。

advertisement

「うつ病」というと、「ガックリと肩を落としている」「ふさぎ込んでいる」という陰のイメージが強いかもしれない。本書によると、これは“一般的なうつ”。受験うつは“新型のうつ”で、一般的なうつとは異なる特徴があるという。たとえば、「イライラする」「わめきちらす」「怒りが爆発する」「部屋で暴れだす」。従来のうつが持っていたイメージとは、いわば逆の特徴なのだ。

 うつ気味になると、集中力が低下する。これによって、たとえば受験生の場合なら、親から「こんな点数で大丈夫なの?」「ここをもっと勉強したら?」などと意見や助言を受けても、次にどんな行動をとったらいいのか、考えがまとまりにくくなる。しかし、勉強しなければ志望校に合格できないという状況はよくわかっているので、親にイライラをぶつけてしまう。

 受験うつに陥ると、こういった症状が過激化・深刻化する。受験うつが流行している背景には、近年の子どもが抱えている「根拠のない自己評価の高さ」…つまり「自分だけは特別な地位について当然の存在なのだ」という「自己愛」があるという。

 近年の子どもは、褒められて育ってきたケースが多い。本書によると、子どもの価値観は幼児期から育まれるが、幼い時期から「お前は才能がある」「天才だ」などとむやみに褒めて自信をつけさせようとすると、過剰な自己愛を抱いた子どもに育つ。しかし、「自分は天才だ」という甘い幻想は、「案外、点数が取れない」「上には上がいる」という壁にぶち当たったときに破綻する。自己認識と現実とのギャップを受け入れられず、強い不満に押しつぶされ、新型うつを発症するのだ。

 また、これも近年の子どもに見られる「他罰的」傾向も関係しているという。よくないことが起こったのは自分のせいだというのは「自罰的」であり、従来型うつに多かった。しかし、新型うつは、悪い結果を人のせいにする。勉強ができなくなった原因は「親が無理に勉強をさせようとしたから」「親の発言にイライラしたから」。人に向けて、不満を解消しようとする。一昔前に比べて、子ども優位の社会が影響していそうだ。

 従来のうつ病とは特徴が異なる受験うつは、発見しにくい。しかし、たとえば答案用紙から、受験うつの傾向を見つけることができるという。心身が不調になったり病気になったりすると、誰でもケアレスミスが増えたり、書かれていない解答が多くなったりする。しかし、受験うつ傾向の答案には、「認知の歪み」から特有の傾向があらわれる。

□ 図形問題で補助線が引けない
→知的好奇心を持ってトライ・アンド・エラーを繰り返しながら補助線を見つけるのが困難になる。

□ 記述式の問題が解答できない
→マークシート型の試験は選択肢を選ぶだけなので切り抜けられても、脳機能的に能動的な作業が求められる記述式の試験は壊滅状態になる。

□ 文章問題の大意がつかめない
→全体像を大づかみに把握する能力が低下するので、文章の論旨や要旨がつかめず、ペンが止まってしまう。

 受験直前にして「自分は受験うつかもしれない」と気づいてしまったら、目の前が真っ暗になるかもしれない。しかし、本書では、受験を乗り切る秘策も数多く掲載されている。たとえば、受験うつになると脳の扁桃体が過剰に反応して不安感が高まり、一つ一つの設問に執着してしまう傾向があるため、わからない問題は「3分間」を目安にさっさと見切りをつけるとよい。また、受験うつは前述のとおり全体像を把握しにくくさせるため、入試本番前に教科書や問題集の目次をA3程度に拡大コピーし、科目の全体像を把握するとよいそうだ。

 親の立場としては、受験うつ傾向があるわが子を叱咤するのではなく、「何か悩んでいることはない?」「何か心配なことはない?」と問いかけ、ネガティブな感情を吐き出すきっかけを与えることを勧めている。

 本書は、受験うつの特徴を熟知し適切な対策を施すことによって、受験生を心身とも極限に追い込む受験が無事乗り越えられるよう願っている。

文=ルートつつみ