「ラップして おけば良かった 我が亭主」 爆笑必至のシルバー川柳にある効果が!?

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/16


『笑いあり、しみじみあり シルバー川柳 人生劇場編』(みやぎシルバーネット/河出書房新社)

川柳といってまず思い浮かべるのは第一生命主催の「サラリーマン川柳」ではないだろうか? 1987年にコンクールが始まって以来、その年の景気や流行語を巧みに取り入れ、哀愁漂うサラリーマンの日常をユーモアたっぷりに詠んだ句が毎年人気を博している。今年はどんな句が大賞に選ばれるのかと楽しみにしている人も多いのではないだろうか。

元々川柳は俳諧連歌(はいかいれんか)と呼ばれる江戸時代に栄えた集団で行う言葉遊びの一種から生まれたもので、季語や情景などを意識せず、社会風刺や人間模様を題材にしたものが主流となっている。現代においてもちょっぴりブラックユーモアを効かせた句や、家族にないがしろにされる父親の恨み節など個性たっぷりな句が詠まれており、思わずクスリと笑ってしまったり、大いに共感してしまったりと幅広い年代で受けている。

すっかり人気の定着した「サラリーマン川柳」と並んで今最も注目を集めているのが「シルバー川柳」だ。『笑いあり、しみじみあり シルバー川柳 人生劇場編』(みやぎシルバーネット/河出書房新社)は全国60~90代のリアル・シルバーから寄せられたシルバー川柳傑作選の第5弾にあたる。元々は宮城県仙台市で発行されている高齢者向けフリーペーパー『みやぎシルバーネット』に連載の「シルバー川柳」への投稿作品を集めたものだったが、発売以来全国に人気が飛び火して、今では日本全国から出版社宛てに投稿作品が寄せられるようになった。お年寄りが読みやすいようはっきりとした大きな字で印刷されているところも人気の秘訣だ。今回は収録作品142句の中から一部抜粋してご紹介したい。

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草取りに 老婆のルンバ 活躍中
角野濱照(65歳)

夏の暑い日でも畑仕事に精を出しているおばあちゃんたち。背中を丸めて文句ひとつ言わずにせっせと草をむしる姿にルンバの姿が重なる。夕方ふと見ると畑一面綺麗に草が取り除かれており、おばあちゃんたちの働きぶりに頭の下がることもしばしばだ。

ラップして おけば良かった 我が亭主
伊勢武子(81歳)

思わず「うちも!」と叫びたくなる奥様も多いのでは? 昔の旦那は…などと言っていると「こっちこそ」と旦那がつぶやく声が聞こえてきそうだ。

出来の良い 孫は嫁似と ほめておき
増山和子(70歳)

何かと頭の痛い嫁姑問題。このようにお互いにちょっぴり気を使っておくのが仲良しの秘訣かも?

九十歳 生きているから 痛いのだ
植野静夫(90歳)

死んでしまったら痛みも感じない。今生きているからこそ痛い。心の痛みも体の痛みも生きている証拠。90歳、言葉の重みがまるで違う。

犬オムツ とうとう来たか お前もか
伊藤清子(85歳)

笑ってはいけないかもしれないが思わずくすりと笑ってしまうユーモアたっぷりの句。お互いに年を取ったペットと共に仲良く生活を送る姿が目に浮かぶようだ。

本当にどれもユーモアたっぷりで何度読んでも飽きない不思議な面白さがある。ただ読んでいるだけでももちろん面白いのだが、実はこのシルバー川柳、意外なところでも役立っていることが紹介されている。まずは「打倒!振り込め詐欺」として、宮城県警察と「みやぎシルバーネット」の合同企画により「振り込め詐欺」を課題にした川柳を募集したところ1000句ほどが集まったという。

オレオレよ 自分の親に かけなさい
岡村美恵子(82歳)

ウソつきに 育てた覚え ないと切る
佐藤健三(89歳)

趣味の川柳にすることで日ごろから高齢者の警戒心を養う良い機会となり、目に留まる機会も増えそうだ。全国の警察でも実施したらオレオレ詐欺の被害減少に大いに役立つかも? また、福島県の被災地へもボランティアの方の手を通して伝わり、新たな趣味としてシルバー川柳を始めた高齢者の方もいるとか。被災地で暮らす高齢者の方に笑いを届けるというのはとても素敵な支援方法だ。生き生きとした明るい老後に笑いは必須。高齢者はもちろんのこと、若い人も笑いあり、しみじみありのシルバー川柳を読んで、お年寄りの底知れぬシルバーパワーに触れてみてほしい。

文=朝倉志保