上司の理不尽の裏をさぐれ、イライラして思考停止に陥るな

ビジネス

公開日:2016/2/26


『社会人として大切なことはすべてリッツ・カールトンで学んだ』(清水健一郎/彩図社)

 リッツ・カールトンは誰もが知る超一流ホテルである。ホテル内装のゴージャスさは当然のこと、ハイクオリティのサービスを提供してくれることで有名だが、中でも客に対して「『NO』を言わない」という魔法のようなサービスがよく知られているかもしれない。

 これは、できる限りの対応をし、物理的に不可能な場合は客が満足するような「代替案」を提供することだが、一見不可能なことを感動的なサービスに変えてしまうのは、リッツ・カールトンのサービスの質を物語っている。

社会人として大切なことはすべてリッツ・カールトンで学んだ』(清水健一郎/彩図社)は、そんな超一流ホテルの日本第1号店であるリッツ・カールトン大阪に開業スタッフとして、新卒で入社した著者の「社会人として大切なこと」をまとめた一冊だ。

advertisement

 社会人として大切なこと、というのは、何も「ホテル業界の」ということではない。本書は「モチベーションを上げる環境の作り方、仕事が楽しくなる方法、様々な困難を乗り越えるための術など『社会人として生活していく上で欠かせないこと』」を、どの業種の方でも共感、実践できるように教えてくれている。

 特に、新卒、入社3年目前後の若い社員には、今後の仕事に対する考え方を変えてくれるような言葉が詰まっているのではないかと思う。本書には上司、経営者向けの教えもあるが、多く内容が割かれているのは著者の入社から3年目前後のエピソードだ。そのため、より共感して読めるのは若い方々なのではないかと思う。

 中でも、「『理不尽』の裏側を考える」というのは、社会人になりたての人々には共感できることも多いだろう。

 著者は入社1年目、「理不尽なのは当たり前」と上司に言われたという。それを聞いた時は、「外資系のリッツ・カールトンでそんなことを言われるなんて」と驚き、著者自身も理不尽なことに腹を立てたこともあったそうだ。

 例えば「仕事は盗むもの、教えてもらうものではない」と教えられ、積極的に上司や先輩サービスマンの行動を観察し、自分の糧にしようとしていたのだが、ある日のティータイムに、自分が知っている方法とは違うやり方で、お客様に紅茶を注いでいる先輩を見かけた。「そういうやり方もあるのか」と後日、その先輩と同じように紅茶のサービスをしたら「誰がそんなサービスを教えた!」と先輩に怒鳴られてしまったとか。もちろん著者は反論。「先輩がしていたサービスですよ」と言うが、「やかましい!」と一喝されてしまった。

「仕事を盗めと言われて盗んだ仕事をすれば怒鳴られる。理不尽じゃないか?」と著者の頭は真っ白になってしまった。

 こういうことは、サービス業に限らず、仕事においてよくあることだと思う。「先輩のマネをしただけなのに」……そういう理不尽さは、社会人にとって付きものだ。

 しかし後に、紅茶を注いだ時の先輩にはちゃんとした理由があり、そのためいつものサービスとは違う方法をとっていたことが分かる。

 そこで著者は「理不尽であっても経験者の咄嗟の判断や行動には、それなりの意味がある」「いらだちにのまれて考えるのを放棄しないでください。理不尽さの裏には一体何があるのか、自分の何が問題だったのか、その答えを見つけたとき、あなたは大きく成長できるはずです」と述べている。

 また、すぐにでも実践できることとして「否定的な言葉を使わない」というのがある。例えばすごく忙しい時に、上司から「明日のプレゼン、君も参加しないか?」と声を掛けられたとする。「え、忙しいし、そんな直前に言われても」と思っても、まず「はい、やります」と肯定してしまってから、「ただ、直近ですので、スケジュールを確認させてください」と付け加えた方が印象がよい。

上司、先輩は頼みにくい用事でも「はい」と、いつも言ってくれる後輩、部下には、頼み事をしやすくなります。そうすると、仕事が回ってくる機会が増え、仕事だけでなく様々なチャンスも回って来やすくなるのです。

 無理なことを頼まれた時、安請け合いするのはどうかと、つい断ってしまいそうになるが、「やりたい!」という意志を見せるのも大切なのだ。

 本書を一番オススメしたい理由は、どんな教えにも「エピソード」がついていること。「こうしなさい」とただ言われるのではなく、著者が経験した具体的な出来事と共に「社会人にとって大切なこと」が書かれている。しかもそれが著者の若い頃の話なので、とても共感ができるのだ。

 若い会社員、悩める社会人のみなさんにぜひとも読んでいただきたい。

文=雨野裾