「愛犬」はぬいぐるみ!? 天才棋士の知られざる奇行三昧。妻が描きました。『将棋の渡辺くん』インタビュー【前編】

マンガ

更新日:2016/3/1

将棋の渡辺くん
(伊奈めぐみ/講談社)

 棋界きっての理論派として人気を集める将棋棋士の渡辺明竜王。その渡辺さんの妻である伊奈めぐみさんが描く、棋士とその家族のちょっと変わった日常が展開する漫画が『将棋の渡辺くん』だ。2013年から『別冊少年マガジン』で連載が始まり、将棋ファンはもちろん、それ以外の層にもジワジワ人気が広がり、このたびようやく単行本となった。ところが作者の伊奈さん、実は連載するまで漫画を描いた経験がまったくなかったそうで…


伊奈めぐみ
漫画家、主婦。神奈川県出身。夫は将棋棋士の渡辺明竜王、小学生の息子がいる。実兄は将棋棋士の伊奈祐介六段、義姉は囲碁棋士の佃亜紀子五段。

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未経験の主婦から、いきなり月刊誌に連載する漫画家に!

――伊奈さんは『将棋の渡辺くん』を描くまで、漫画を描いた経験がまったくなかったそうですね?

はい、そうなんです。2007年から「妻の小言。」というブログを書いていて、ブログを本にしませんか、という依頼は何度かあったんですけど、このブログを見て「漫画を連載しませんか」とメールで連絡が来たんですよ。

――いきなり連載の話だったんですか!

読み切りではなく連載で、でした。ちょっと意味がわからなかったですね~。なので「胡散臭いね」「嘘なんじゃないの?」と旦那と言ってました(笑)。

――でも本当の話だった、と。しかし一切経験がない漫画をよく描こうと思われましたね!

やったことがないし、よくわからないからとりあえず描いてみよう、という感じでした。ブログに載せているのは写真が多くて絵はほとんど描いてなかったので、絵は期待されていないんだな、ってことは最初からわかってましたし(笑)。でもイラストだったり、もともと描くことは嫌いじゃないんですよ。油絵を描いていたこともあったので。ただ油絵と漫画は全然違いますけど…。それから家の中にいるのも、細かい作業をするのも好きなんです。私は高校も大学も通信制だったからそういうのに慣れていたので、家で漫画を描くのも同じだなと。

――何事も経験、ということですね。漫画初心者の伊奈さん、どこから始めました?

まず漫画をどんな紙に描いていいのかがわからない。ペンもわからない。それで編集さんに聞いたら、Gペンというのを教えてもらったので、練習してみたけど…使えなくて。結局ミリペンを使って、今もずっとそれで描いてます。

――いきなりだと、何から始めていいかわからないですよね。

あとは本屋さんへ行って漫画の描き方の本を買ってきたり、ネットで描き方の動画を見て練習しました。もちろんトーンなんて使ったこともなかったし、未だにホワイトも怪しいくらいですよ。他の方の描いた原稿を見たことがないので、なんとなく描いてる感じで、いまだに私のやり方で合っているかどうかわからないんです。そういえばこないだ初めてトーンの上にホワイトで描いてみたんですよ。漫画のテクニックとしては当たり前なのかもしれないですけど、本当に描いていいのかな、と思いながら…。連載1話目の掲載誌を見たらなんとか大丈夫だったので、安心しました(笑)。そんな感じでやってますね。

好きはトコトン追求、それ以外は空っぽ?

――『将棋の渡辺くん』に「旦那の頭の中は将棋の知識だけで、それ以外は全く入っていない」というモノローグがありますが、たくさんのぬいぐるみと一緒に遊んで、漫画が大好きで野菜嫌い、そしてちょっと変わった行動や言動で読者の度肝を抜いています。

私にとっては日常なので、特に驚いたりとかは別にないですね。ぬいぐるみもいつものことなので。もちろん最初は驚きましたよ。漫画にも描きましたけど、結婚前に旦那が「犬を飼ってる」というので私はてっきり本当の犬の話だと思っていたら、彼はぬいぐるみの話をしていて。なんか話が合わないな…とは思っていたんですが。旦那の中では本物の犬とぬいぐるみの犬は同じなんですよ。最初はそんな感じでしたけど。

――表紙で渡辺さんの将棋の相手をしているのが、漫画にもよく登場する「シロちゃん」ですね。ちなみに僕が一番驚いたのは、「蚊取り線香にライターで火を点けて、ウッドデッキに置いて」という伊奈さんのお願いに、渡辺さんがライターの使い方がわからず、ガスコンロで大騒ぎしながらやっとこさ点火して、その火のついた蚊取り線香をウッドデッキに直置きする、というエピソードでした…

(C)伊奈めぐみ/講談社

それ、2年連続やってますからね。

――え!

1年目に教えたんですけど、翌年もまた同じようにやってたんで、もうそれからやらせてないです。また同じことするかもしれないですし、覚えようという気はないみたいですから。でも仕事とかに関しては真面目にこなしてますよ。むしろ細かいくらい。そこに集中して、他のことはなくなっちゃってるんでしょうかね(笑)。好きなことは一生懸命やるんですよ。将棋、競馬、漫画、サッカーなどは自分が好きなものに関しては情報を集めているんですが、データが溜まっていくのが好きなんでしょうね。競馬やサッカーの中継はほとんど見ていて、漫画も発売日の朝イチで本屋さんへ買いに行ったりしますよ。

――お子さんのサッカーの試合の審判をやり始めるときも、ルールブックはもちろん、ユニフォーム一式をも揃えて準備万端でしたもんね(笑)。そんな渡辺さん、対局のない日はほとんど家にいるそうですが、一般的な家庭だと「旦那が家にいると邪魔」と感じてる人が多いように思うんですが?

旦那は家にいるときはいつも自分の部屋にいますね。将棋もパソコンで研究しているんで、ずっと自室のパソコンの前にいます。私も自分の部屋があってそこで仕事したりしているので、気にならないですよ。ご飯の時だけ一緒ですね。でも旦那はわりとお昼は外でラーメンとかうどんを食べるのが好きで、漫画を買いに行ったついでに食べたり、喫茶店へ行ったりしてるみたいです。私はひとりで昨日の残りを食べたりしてますよ。

――それって「アンタだけいいもの食べて!」とかケンカになるパターンじゃありません?

いや、食べに行くといってもラーメンとかうどんですし。わざわざ昼ごはんを作らなくていいから、楽じゃないですか?

――まあ確かにそう言われたらそうですが…(笑)。渡辺さんと伊奈さんのご夫婦って、絶妙な相性なんですねぇ。

相性というか、好みというか(笑)。旦那に最初に会った印象は「素直な人だな」って。必要以上に自分を大きく見せないとか、言い訳をしないとか、そういうところは今も変わってないです。彼が18歳のときに出会って、19歳で結婚して、20歳の時に子どもが生まれてるので、旦那の成長も子どもの成長と一緒ですね。でも最近はできることが増えてきて、ちょっとずつ真人間になってきてるんですよ。ただ子どもは4月から6年生なので、最近は若干抜かされつつありますかね(笑)。

【後編】へ続きます。

「別冊少年マガジン」連載
将棋の渡辺くん』コミックス1巻好評発売中!

著:伊奈めぐみ
定価:本体800円(税別)
出版社:講談社
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取材・文=成田全(ナリタタモツ)