放置された空き家 増加の背景には“実家への愛着”があった?

社会

公開日:2016/3/1


『親ともめずにできる これがリアルな実家の片づけです。』(内藤 久/ディスカヴァー・トゥエンティワン)

 昨今、各地に点在する空き家が問題視されている。注目される大きなきっかけとなったのは15年5月に完全施行された「空き家等対策の推進に関する特別措置法」。地域住民の生活に影響を及ぼすと認められた場合、行政代執行による立ち入りや取り壊しも行なわれ、各地の事例がニュースに取り上げられていたのも記憶に新しい。

 では、家主の誰もいない空き家はなぜ生まれるのか。1650軒以上もの遺品整理を手がけてきた専門家の立場から、それぞれの人がおろそかにしてしまいがちな「実家の片づけと密接に関係している」と訴えるのは、書籍『親ともめずにできる これがリアルな実家の片づけです。』(内藤 久/ディスカヴァー・トゥエンティワン)である。

 子どもが親元から離れて暮らしている場合、遺産相続上の理由を除けば「できることなら(実家を)残しておきたい」「愛着のある家をそのままにしておきたい」という感情が、空き家を生む原因になっていると著者は語る。

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 しかしながら、近隣住民の立場になってみれば、空き家は不安や不満の対象にもなりうる。本書では、空き家にひそむ問題をいくつかの項目にわけて解説している。

 経験をふまえて「案外持ち主が気がついていない危険が、空き家に潜んでいる」と著者は話す。例えば、実際に著者が依頼されたケースでは、わずか1メートルほどずれれば落下する可能性のあるテレビのアンテナが、屋根の上でワイヤーにかろうじて引っ張られるのみで放置されていた家屋があったという。

 その他、長らく手の入れられていない枝木が道路に張り出していたり、そもそも建物が古ければ、耐震性に問題がみられたりする場合もあり、じつは、冒頭の特別措置法の施行にもつながっている。

 また、治安面での問題点も著者は指摘する。遺品整理の依頼により実際に訪れたケースでは、ゴミの山となっていた空き家もあったという。

 ただそれは、生前の家主が溜め込んでいたわけではなく、著者が経緯を調べてみると、収集日に出しそびれたゴミを近隣住民が次々と捨てはじめてしまったものが積み重なったものであると後々になり判明したという。さらに、ゴミの山からはタバコの吸い殻も見つかったというが、ひいては不審火の火元になる危険性も考えられる。

 そして、資産価値における問題点もある。先の特別措置法では、行政が「特定空き家」と認めた場合に、固定資産税の減免対象から外される可能性もありうる。相続する立場からみた懸念事項となるが、近隣住民にとっても、空き家により周辺一帯の地価が下がることを不安視する声もあるという。

 思い入れの詰まった実家が、ボロボロの空き家となり、やがては他人からうとまれるようになるのは喜ばしいことではない。それを避けるために著者は「親(や兄弟)が元気なうちに、実家を将来どのようにしたいと思っているのかを相談しておく」のが重要だと述べている。

 親や兄弟とのコミュニケーションを図りながら捨てるべきモノ、残すモノを見きわめるのが大切であるとも伝えるが、その心得については本書を参考にしていただきたい。

文=カネコシュウヘイ