手取り26万円でも自称“貧困女子”の不思議 ―都会で暮らす30代貧困女子の本音

社会

更新日:2017/3/21


『貧困女子のリアル(小学館新書)』(沢木 文/小学館)

 ここ数年で注目されるようになった若い女性の貧困。子どもを抱えて仕事を掛け持ちするシングルマザー、家賃が払えずネットカフェに住む女性など、様々なケースがある。しかし、普通の暮らしをしているように見えても実は食べるものにも困るような生活を送っている女性が、特に都会で増えている。驚くべきことに、大学を卒業していたり、正社員として勤務していたりする場合でも、困窮生活に陥っている女性が少なくないそうだ。

貧困女子のリアル(小学館新書)』(沢木 文/小学館)には、都会で暮らす30代の女性への取材を基に、貧困生活を送る女性11人の実態が記録されている。父親の暴力や母子依存など親との問題を抱えている女性、見栄のためや周囲に合わせて浪費してしまう女性、他にも、コンプレックスが強いために、それを補おうとして借金を抱えている女性など、原因は様々だ。

 その中で意外だったのは、大卒や正社員でも生活が困窮する女性がいるという事実。何となく、学歴が高ければ安定した収入が得られる、正社員なら生活に困らない、というイメージを抱いていたからだ。しかし、よく考えてみれば、企業に就職しても、かつてのように必ずしも年功序列や終身雇用が保証されているというわけではないのだから、安定しているとは言い切れない。非正規雇用も増えているし、今の30代は就職氷河期を経験して、思うような就職ができなかった人も少なくないだろう。

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 例えば、本書で紹介されている村岡美里さん(仮名)は、東京都在住の36歳。転職を繰り返すも、行く先々がブラック企業で、現在は正社員として某健康食品会社に勤務するが、ここもブラック企業だという。月給は手取り26万と多いようだが、毎日朝9時から終電まで働き、休日出勤も頻繁にある。それなりに稼ぎながら使う時間がないような生活だが、クレジットカードの返済が100万円残っており、自らを貧困女子だと考えている。

 美里さん本人は、自分が貧困女子になってしまう理由を「東京都心で生活しているから」だと話し、基本的にだらしないから自制心がなく、お金に余裕がなくても飲みに行ったり遊びに行ったりして、月の交際費が7万円を超えることもよくあるそうだ。そこで著者が、もう少し節約して生活を改善しては…と提案すると「ストレスが凄いから絶対無理」と反論。脱貧困した他の女性のことを話すと「私とは人間力が違う」と一蹴してしまう。

 美里さんだけではないが、本書に登場する30代の女性は、時として「本気で貧困を脱する気はあるのだろうか?」と思わせるような発言をする。分かってはいるけれど、自分には無理だと半ばあきらめモードの女性、400万円の借金を抱えながら貯蓄もせず、「いつか王子様が現れる」とあっけらかんと話す女性、現状維持がベストだと冷静に話す女性。

 彼女たちの発言を聞いていると、色々とツッコミを入れたくもなるのだが、不思議と共感できる部分も多い。というのも、著者も指摘していることだが、このような貧困女子が生まれる背景には、社会の仕組みや家族の影響があるからだ。例えば、アラフォー世代は子どもの頃、「我慢」が美徳だと教えられることが多かった。それ故に、美里さんのようにブラック企業だと分かりながらも我慢して仕事を続け、結果として体調を崩し貧困に陥ってしまう人も出てくる。

 もちろん、もっと過酷な環境でも貧困に陥らずに生活を維持している人もいるだろうし、一度は貧困に陥っても地道に努力をして脱貧困した人もいるだろう。しかし、本書で紹介されているような、外から見たら気づかない貧困女子が多くいるのも事実だ。そんな女子が、変われる可能性を信じて、そのきっかけをつかむには、社会や私たち一人ひとりが手を差し伸べることが大切なのかもしれない。

文=松澤友子