あなたは、本当に愛する人を殺せますか? 不死の少女と彼女を愛してしまった青年の、悲劇的なラブストーリー

マンガ

公開日:2016/3/6


『兎が二匹』(山うた/新潮社)

 愛する人と死ぬまで一緒にいたい――。それは誰もが願う愛のカタチだろう。では、その愛する人が“不老不死”だったら? 『兎が二匹』(山うた/新潮社)は、そんなファンタジーな設定を下敷きに、愛する人とのすれ違いを描いたマンガだ。

 本作は、衝撃的なシーンから幕を開ける。ある青年が「お願い、死なないで」と泣き叫びながら、少女の首をギリギリと絞め続けているのだ。やがて少女の首の骨は折れ、息絶えてしまう。それを見ては、「嫌だ嫌だ嫌だ」と咽び泣く青年。その数秒後、少女は「じゃかあしい! 今日も死に損ないじゃ」と息を吹き返す……。この少女の名はすず。青年の名は咲朗。ふたりの日課は“自殺”と“その幇助”。そう、すずはなにをされても死ねない、不老不死なのである。

 すずの年齢は398歳。4歳の夏に“飢饉”を迎え、口減らしで土に埋められた。しかし、なぜか甦ってしまい、それ以来、「気味の悪い化け物」として迫害され続けてきたのだ。そんな彼女の願いは、死ぬこと。なにを見てもなにを聞いても、嫌なことばかりを思い出してしまう。自身を埋めた父親の後ろに見えた入道雲、ひどい折檻ばかりだった奉公先で揺れていた旗の音、焼かれた街の生ぬるい風。どうやっても忘れることができない記憶に苛まれながら、ただただ永遠の死を願うのだ。

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 咲朗は、その願いを叶えるために、毎日すずを殺害する。「死なないで」と泣きながら、それでも愛する少女の願いを現実のものとするために、その手を血で汚し続ける。彼らが流す血は、さながら涙のようだ。いくら流しても、それが絶えることはない。なんという拷問だろうか。

 やがてすずは、確実に死ぬための方法を発見する。それは、死刑になること。やってもいない事件の犯人だと自首し、どう考えても蘇生困難な方法で“国家に”処刑してもらう。自力では死ねないすずが見つけ出した、最後の名案だ。しかし咲朗は、そんなことを認めようとはしない。「俺が死ぬまでは一緒にいるから」と懇願する。それに対しすずは、普通に生きていけ、と諭す。いい女を見つけて、結婚して、子どもを作って、楽しく長生きしてから死ぬ。それが咲朗にとって一番なのだ、と。

 しかし、死刑執行から1年後、すずは甦ってしまう。カラダをバラバラにし、海に撒いてもらったにもかかわらず、死は彼女を受け入れてくれなかったのだ。仕方なくすずは、1年ぶりに咲朗に会いに行くことに。そこで待っていたのは、あまりにも残酷な現実だった……。

 死ぬこと、そして殺すこと、という衝撃的なテーマを扱いながらも、本作で描かれているのは至極ピュアな恋心。愛しているから側にいたい、愛しているから願いを叶えてあげたい。しかし、そこに“永遠の生”が絡むことで、物語はこんなにも悲劇的になってしまうのだ。

 好きな人と一緒にいられること、そしてそれは永遠ではないこと。死ねない少女・すずと、それを愛してしまった青年・咲朗の恋模様からは、そんな当たり前なことの大切さを教えられる気がする。まさに、究極のラブストーリーの誕生、と言えるだろう。

文=前田レゴ