相手への「反論」、どう伝えればいいのか? イギリスの首相に学んでみる

ビジネス

更新日:2016/4/6


『イギリスの首相に学ぶ! 反論の伝え方』(信夫梨花/主婦の友社)

 日本人が苦手なことの一つは「反論すること」ではないだろうか。

 意見に異を唱えることは、相手を否定することになる。角が立ったらどうしようと、日本人は相手の意見に対する「意見」ができない。ひどい場合は反論=ケンカだと思っている人もいるくらいだ。

 仕事でも上司や同僚の意向に違う意見をぶつけたい時、うまく言葉にできなくて、結局関係に亀裂が走ってしまったなんてことも。そんな反論下手の方々へ贈りたい一冊がこちら。

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イギリスの首相に学ぶ! 反論の伝え方』(信夫梨花/主婦の友社)は、イギリスの議会における首相のクエスチョン・タイムでの発言を参考に、シチュエーション別に「反論の仕方」をまとめている実用書だ。

 首相のクエスチョン・タイムとは、日本では聞き慣れない言葉かと思う。プライム・ミニスターズ・クエスチョンズ、略してPMQ。これはイギリス下院(庶民院)議会における首相との質問と答弁のことだ。

 首相には事前に質問内容が知らされることがないので、質問されたことには即座に、適確な意見を述べなくてはいけない。なので、PMQを見ればイギリスの置かれている状況や、議会政治のあり方を如実に見ることができると言われている。

 そんな「ぶっつけ本番」に等しいPMQでは、数多くの華麗なる「反論」が繰り出されている。本書はそこから反論術を学ぼうという趣旨なのだ。

 それでは、本書の中から日常でも使えそうな反論の仕方を抜粋してみたいと思う。

1、「あなたには好意を抱いており、侮辱するつもりはありません」
 労働党のトニー・ブレア首相のとある反論は、この言葉から始まる。クッション言葉に近いかもしれないが、まず、相手に好意があることを伝え、そしていかなる反論も「あなた自身を侮辱するものではない」という意志表示をするという方法。

 いかにも英語圏らしい言葉遣いと思われるかもしれないが、日本では聞き慣れない分、言われた方は一層本心に聞こえ、発言者の真摯さが増すのではないだろうか。

2、「本気で仰っているとは、とても思えないのですが……」
 相手の見識を疑うフレーズとして紹介されているのがこちら。「鉄の女」と称されたサッチャー首相が使用した反論。これは激しい非難や攻撃を受けた場合、「私はあなたの言っていることを信じません」と言うよりも効果的であり、聴衆にとって、問題が「自分」ではなく「相手」にあると思わせることも可能なので、聴衆の注意を逸らすこともできる。

 日本で使う場合は、あくまで冷静に口にするのがいいと思う。下手をすれば、ものすごく怒っているように聞こえてしまうかもしれない。

3、「紙に書いてあることを何でも信じるのですか」
 相手が提示してきた証拠の信憑性を、一瞬で揺るがすことができる言い回しとして、キャメロン首相がよく答弁で使用していた反論だそうだ。これは新聞や雑誌記事などを掲げられ、紙面に載っていることに関して非難追及された際に、一瞬にして相手の形勢を弱くする一言。これは一番、日本人でも口にしやすい反論だろう。

4、「苦情については通常通り処理いたします」
 追及されたくないことを指摘された時、つまり「イタイところつかれた」場合には、感情的になるのではなく、「事務的に」対応することも大切だ。ブラウン首相はとあるパワハラの問題を非難された際、「いかなる苦情も通常通り処理いたします」と返し、パワハラについては肯定も否定もしなかったのだ。

 これは「第三者には関係のないことなので、放っておいてください」という感情を冷静に伝えることができる。執拗な非難を一刀両断する際に使えそうだ。

5、「それよりも、もっと大切なことがあるのです」
 論点をずらしてテーマをすり替える方法。相手の意見を否定はせず、しかし「それよりも私の話を聞いて!」と問題をすり替えてしまうのだ。ブレア首相は相手からの政治に関する非難において、「それは確かにそうだ」と一旦認めておき、「しかし、それよりも大切なことは、(私が推進している)この件なのです!」と見事に流れを自分の物にしてしまったそうだ。相手を否定しないで済むので、日本人でも使いやすそうな反論だと思う。

 今回は、イギリスの具体的な政治論争を説明せずに、反論の仕方だけを紹介してしまったが、本書は一つ一つの反論に、その首相が実際に使用した場面を書いてくれている。そのため、イギリスの政治についても知ることができ、歴代の首相たちの、ウィットに富んだ反論をその場の空気を感じながら読むことができる。

 PMQから学ぶ反論、ちょっと上級者向けの言い方もあるが、ぜひとも参考にしていただきたい。

文=雨野裾