朝井リョウ 「大家族というものへの憧れがあった」

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/27

大学2年生、20歳で新人賞を受賞しデビューを果たした朝井リョウさんが、待望の新作『星やどりの声』(角川書店)を発表した。『桐島、部活やめるってよ』『チア男子!!』に続く第3作は、著者初挑戦となる家族小説だ。

「編集者の方から“家族ものをやりませんか?”と声かけてもらったんです。昔から大家族もののテレビ番組が好きだったので、やるなら大家族ものがいいなあと。僕自身は両親がいて姉がいる、平均的な4人家族なので、大家族というものへの憧れがありました」

4年前に癌でなくなった建築家の父がリフォームを手掛け、母が営む、海辺の喫茶店「星やどり」。その早坂家の三男三女=6人きょうだいの視点が章ごとに変わる連作短編形式で、物語は進んでいく。

「6人きょうだいを別々の視点から書くことによって、外から見られている自分と本当の自分という、ギャップを描いてみたかったんです。僕自身、そういうギャップを実際に作っていたと思いますし。同様に、僕の中で家族は家族で、それ以外の何者でもない。だけどそんな家族だって、僕の知らない場所では、“僕の家族”ではない存在としての顔がある。そんな気づきから、この物語を書こうと思いました」

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ある登場人物は言う、「大人になる瞬間なんて、ないんだよ」。人はいつの間にか、境界線を踏み越えていく。そのことをこの小説は視点を変えて何度も伝えてくれる。書き進むにつれて、ラストシーンのイメージは大きく変わったそうだ。

「子どもたちがお父さんのことを思い出すっていう場面を何度も書いていくうちに、この関係性って実は結構、残酷だなって。だんだんと、これは父の呪縛から解放される話かもしれないと思うようになりました。だからああいうラストシーンになったんです」

それは、当時の朝井さん自身のテーマにも関係するという。

「僕自身にとって、大学を卒業して社会に出ることを考えるのと同時期に“家族から出る”ということをテーマにしたのも大きかったです。あの時期に書いたからこそ、こういうラストになった。いろんな意味で、“あの時”にしか書けない小説だったと思います」

(ダ・ヴィンチ12月号 今月のブックマークEXより)