ハンバーガーはいかに「ファストフード」になったのか?【歴史】

食・料理

公開日:2016/3/10


『ハンバーガーの歴史 世界中でなぜここまで愛されたのか?』(アンドルー・F・スミス:著、小巻靖子:訳/スペースシャワーネットワーク)

 幼い頃、姉が初めて買ってきたハンバーガーを味わった記憶は鮮明だ。一口めを味わった瞬間、大きな衝撃があった。それこそ「ナンダコレハ!」と目をみはる未体験の味。肉の味とソース、マヨネーズ、レタスが絡み合い、ほのかな温かさとともに口中で解け合う至福――。この、たまらなく魅力的で万人に愛される「ハンバーガー」とは、一体何なのだろう? ずっと気になっていた疑問だった。

ハンバーガーの歴史 世界中でなぜここまで愛されたのか?』(アンドルー・F・スミス:著、小巻靖子:訳/スペースシャワーネットワーク)は、みんなの人気者、ハンバーガーの発祥から世界中に広がっていく歴史を、正確なデータに基づいて詳細に綴った本だ。私が初めて味わったのは、ハンバーガーが日本に馴染み始めた頃(1970年代)のテリヤキチキンだったんだな…と、この本を読んで知った次第だ。

 本書によると、ハンバーガーのルーツは18世紀のイギリス。肉をパンで挟むという発想は、やはり「サンドイッチ」が起源のようだ。ギャンブル好きのサンドウィッチ伯爵が生みの親――とはよく聞く話だが、実際は少し違う、という解説も面白い。このサンドイッチがアメリカのレシピ本にも載るようになり、ハンバーガーの起源となる。アメリカの労働者たちは、小さなパンに具を挟むよりも、大きなロールパンにさまざまな具をたっぷり挟んだものを次第に好むようになったのだ。

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 本書を読むと、ハンバーガーがアメリカの象徴とされる理由がよくわかる。ハンバーガーの興隆は、アメリカの近代化そのものだからだ。それまで肉を刻むのに手間がかかった「ハンバーグステーキ」が、挽肉用機械の開発により手軽に調理できるようになる。挽肉には安価な肉が使える点も大きなポイントだ(同時に健康被害に結びつく問題点ともなる)。昼夜を問わず働く労働者が増加したことも、手軽に食べられる食事が歓迎された要因となった。19世紀には、車にキッチンを積んで料理を移動販売する「ランチワゴン」が流行。この屋台でソーセージをパンに挟んで売り出したのが「ホットドッグ」だ。その名の由来も本書の中で詳しく知ることができる。パンとハンバーグステーキもまた、このランチワゴンで出会う。ハンバーガーの誕生である。

「ハンバーガー=ファストフード」として急速に広まったのは、アメリカの工業化と相まって、効率的な生産と大量消費が最優先されたことが原因だ。この「ハンバーガーの近代化」に最も成功したのがマクドナルドなのだ。ハンバーガーやポテト、ミルクシェイクなど、全ての商品を効率的に、均一に作る工夫、そして販売戦略の巧みさには驚かされる。世界中の異文化へどのように浸透させていったのか、その戦略も読みどころだ。

 マクドナルドの経営改善の努力は、最近に限ってのことではないという事実にも重みがある。「一人勝ち」を続けてきた大企業には批判も多い。動物愛護や自然保護、健康を志向する人々からの敵視。本書にはマクドナルドの功罪について明確に記され、利益のみを追求することの問題点も浮き彫りになっている。そして、効率最優先の時代を終えた今、ハンバーガーの隠されていた一面――「ゆっくり味わう料理としてのハンバーガー」が注目されているという、巻末の松原好秀氏による解説は大変興味深い。

 ハンバーガーがなぜ世界中で愛される食べ物になったのか。本書を読むと、その理由に納得する。読み終わった後に、「ハンバーガーとは何ぞや?」という解答をつかんだ満足感を得られるのは間違いない。また、18世紀のハンバーグステーキから話題のハンバーガーまで、興味深いレシピも紹介されている。実際に味わってみたい人にもおすすめだ。

文=あおい