ブスが美人と入れ替わったら? 美人になったら幸せになれる? アラサー女子の日常×入れ替わりファンタジー

マンガ

公開日:2016/3/16


『鏡の前で会いましょう』(坂井恵理/講談社)

 もしも石原さとみのような顔と体型に生まれていたら、私の人生はどうだっただろうか? 女子なら一度は考えたことがある、「美人に生まれてたらなぁ~」という現実逃避に近い妄想。

 それでは実際、美人と入れ替わってしまったら?

 元に戻りたいという気持ちはありつつも、夢にまで見た美人ライフを謳歌するのではないだろうか。

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鏡の前で会いましょう』(坂井恵理/講談社)は、そんな女子の妄想を実現させてくれた共感度の高いオトナ女子のコミックだ。主人公の各務明子(かがみあきこ)は、お世辞にも美人とはいえない。はっきり言ってしまえば、ブス。不動明王に似ていることから、あだ名は「明子」を「みょーこ」と呼ばれる始末。そんな明子も、大人になり自分がブスであることを受け入れて生きてきた。ブスはブスなりの振る舞い、恰好をし、キャラを作り、自分なりに幸せに生きていたのだ。明子は決して内向的ではなく、社交的でノリがいい。恋愛においても決して奥手ではなく、恋愛経験もある。

 そうは言っても、本心では「どうして美人に生まれなかったのだろう」という負い目があった。そんな時、美人で小柄、おっとりした友人の愛美と中身だけが入れ替わってしまう。戸惑う愛美だったが、明子はそれどころではない。「夢にまで見た美人ライフ!」と、ブスの頃はできなかったことを、ここぞとばかりに経験し始める。

 デパートの化粧品売り場で実際にお化粧をしてもらいながらお買い物をしたり、フェミニンなワンピースを着て、甲高の足には合わなかった、華奢なヒールの靴を買ったり。 不動明王みたいな自分には決して行くことができなかった場所へ行き、洋服を身に纏う。道中ナンパまでされたり……まさしく、ブスの自分にはできなかったことばかり。

 明子は奇跡的に訪れた美人ライフを満喫していた。

 一方で、見た目もかわいく、公務員として堅実に働き、何の悩みもないと思っていた愛美にも、人には言えない悩みを抱えていた。愛美の母親は超過保護で、お風呂も寝る時も一緒。付き合うお友達にまで口を出してくる。どうやら公務員になったのも、母親の意向らしい……。自分の母親はおかしいのではないかと思いながらも、愛美自身も母親に依存し、お互い親離れ、子離れができない関係であった。

 そんな愛美の実情を知った明子(身体は愛美)は、愛美(身体は明子)を連れ出し、二人で一緒に暮らすことに。母親との関係が完全に切れたわけではなく、問題が解決したわけではないが、愛美は新しい一歩を踏み出すことになるのだ。

 しかし問題は更に続く。

「私たち、自由恋愛をしてもいいでしょ?」と明子は持ち出す。「もちろん他人の身体だから、結婚とかは出来ないし、妊娠も気を付けるから」と説得するが、愛美は拒絶。

「私、男の人とそういうこと、まだ一度もしたことがないの」

 明子は初めて愛美が処女であることを知り、「可愛いのにどうして!?」という驚きでいっぱい。どうやら愛美には母親以外にも、何か抱えている闇がありそうだ。

 明子が恋愛をしたいと言い出したのには理由がある。明子の勤めている家具屋の店長に、明子はずっと片想いをしていた。しかし、店長は大人のカッコいい男性。ブスであった明子は「好きになることすら自分に許さなかった」相手。しかし今は美人愛美の身体。「ようやく好きになれる資格ができた」と思ったのだ。美人になったからこそ、憧れのあの人にアタックしてみたい……。

「他人の身体で?」「早く元に戻る方法を考えろよ!」というツッコミも大いにあるかもしれない。けれど、個人的には明子の行動には共感を持ってしまう。女子には「見た目がいまいちだから」「自信がないから」というだけで、諦めてきた多くのことが、本当にたくさんあるのだ。

 そんな女子なら必ず明子を応援したくなる。読んでみたものの、いまいち共感ができなかったというあなたは、恵まれている顔なのかもしれませんね……。

文=雨野裾