「ごめんなさい」と言わせることが大切なんじゃない ―いちばん大事なのは「自分で判断する力」を育てること

出産・子育て

公開日:2016/3/18


『「やっていいこと・悪いこと」がわかる子の育て方』(田嶋英子/青春出版社)

 いじめや犯罪など、昔からたびたび問題になることはありましたが、近年のように子供の凶悪犯罪が多く報道されている状況には、子供を育てる親の1人としても不安を隠しきれません。一体子供たちに今何が起こっているのか。子供自身が犯罪に巻き込まれないように自分の身を守るすべを身につけるにはどうやって育てたらよいのか。

 子供が犯罪に巻き込まれないためには、子供自身が判断力を身につけるべきだと指摘するのが『「やっていいこと・悪いこと」がわかる子の育て方』(田嶋英子/青春出版社)です。今、圧倒的に「やっていいこと・悪いこと」がわからない子供が増えており、その原因は家庭での子育てにあることを示唆しています。親が子供に対する態度の具体的なNG例を挙げると、

・「わがままはダメ!」と叱っていませんか?
・「決まりだからダメ」と言っていませんか?
・「人に迷惑をかけるな」とはどういうことなのか。
・悪いことをしたとき「謝らせて終わり」にしていませんか。

 などがあります。どれも大人が子供にやりがちな態度ですよね。でもどうしてそれがダメなのでしょうか。実はこれらの言葉には子供の判断力を奪いとってしまう恐ろしい罠が潜んでいるからです。

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 まず、「わがままはダメ!」と叱ってはいけない理由は、この本によると、

「わがまま」というのは「自分の欲求を表現するときに相手や周りの状況を配慮しないこと」

 とあります。日本では特に周囲に上手に合わせ、いわゆる空気を読むことが出来る子供を「物わかりの良い、いい子」とし、自己主張が強い子を「わがままな子」としてしまう傾向にあります。しかし、実際には自分の気持ちを押し殺して、相手や周りに合わせてがまんすることでストレスがたまり、自己肯定感が下がってしまうことが知られています。

 子供にがまんを強いることで子供の個性や価値を否定していることに繋がっているとは驚きです。いい子を強要することで子供の人格を否定し、心を深く傷つけていることがあるのです。大切なのはわがままを言わせないことではなく、「上手に自己主張する力」を育てることだったのですね。

 そして「決まりだからダメ」という言葉にはもっと注意が必要です。子供は決まりだからだめと言われたとき、どうしてだめなのかその理由を知らされないままでいると、善悪の区別を知る機会を逃してしまいます。大切なのはなぜその決まりがあるのか、その決まりを守らないことでどのようなことが起こるのかを理解させなければいけません。決まりは皆が安全に暮らすために必要なことで、その決まりを守らないことは悪いことである、ということをそのたびにしっかりと説明する必要があります。

 同じく「人に迷惑をかけない」ということも数多くある決まりの1つです。しかし、人によって迷惑だと感じたり、迷惑と感じなかったり、非常にあやふやな「決まり」でもあります。大人でもわからないシーンが数多く存在するのではないでしょうか。このような場面に遭遇したときに必要なことは「相手に直接聞いてみること」だと説明されています。「○○したら迷惑でしょうか?」と直接問いかけてみることで、相手との有効なコミュニケーションが可能になります。大人でも出来ていない人、多いですよね。子供のころから教えておくことで将来のコミュニケーションに大きく役立ちそうです。

 最後に「謝らせて終わりにしていませんか」について考えていきたいと思います。例えば子供が万引きをしたとき、子供はとても悪いことをした、ということは理解しているとします。そして「ごめんなさい」と親に謝ります。親は心から反省した子供を見て、子供を信じることにします。でも、ここで終わりにしてしまってはいけません。大切なのは、この経験から何を学んだか、です。万引きはとても悪いこと、犯罪です。罪を犯してしまったことで、お店の人をはじめ親や学校、いろいろな人に迷惑をかけてしまいます。だから、もう二度と罪を犯さない、ということを本人にしっかり自覚させることが大切なのです。

 悪いことをしたときに謝って終わってしまえば、また同じ犯罪を繰り返すリスクが残ってしまいます。犯罪を再び繰り返さないためにはどう過ごしたらよいのか、そのための話し合いこそが大切なのですね。日頃子供に投げかけている親の何気ない言葉が、子供を善悪の区別のつかない子供に育てているとしたらとても怖いですよね。この本に載っている言葉はどれもとても身近で親としての子供への接し方を考える良い機会になりました。子育て中のお母さんだけでなく、子供に関わるすべての大人に読んでほしい1冊です。

文=朝倉志保