クソみてえな俺が見つけ出したスタイル――“スイーツ真壁”がプロレス哲学を語る

テレビ

公開日:2016/3/30

 “スイーツ真壁“としてテレビや雑誌でお馴染み、プロレスラー真壁刀義。甘いスイーツの食レポで、日本中のお茶の間を和ませる。しかし、プロレスラーとしての姿は真逆だ。昭和プロレスを彷彿とさせる男気溢れるファイトスタイル、そして“俺様”なコメントが、ファンから絶大な支持を得ている。そのギャップの虜になる女性ファンも少なくない。

 そんな真壁自身の初の著書となる『だから、俺はプロレスで夢を追う!』(徳間書店)を読むと、想像以上に超ド級の俺様…! ギャップの上をいくギャップに、笑いすらこみ上げてくる。自信の源を探るべく、インタビューを決行した。

――いま、これだけプロレス人気が高まっているのは、なぜでしょうか。

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「昔から、日本経済が落ち込んだときって、国民はいろんなスポーツに勇気づけられてきたんだよ。長嶋(茂雄)さんだったり、王(貞治)さんだったり、千代の富士だったり。プロレスでも、アントニオ猪木や長州力に勇気づけられてきた。いまだって日本経済が厳しいだろ。勇気を与えてくれるのは、一番身近な力持ちなんだよ。

 俺たちがプロレスでなにを見せているかというと、立ち上がる勇気なんだ。100キロ超えた人間がぶつかり合う、音と迫力だ。逃げて勝つこともできるのに、あえて逃げずにぶつかる。逃げたら悔しいし、負けを認めることになるだろ。しかし、反則されても、敢えて受けるのがプロレスラーだ。なんで逃げないのかというと、それはバカだからだ。バカなのがカッコいいからだ。ある意味、ガキ同士の喧嘩なんだよな」

――プロレスは、自分に寄せて観ることができますよね。

「プロレスって、観る人の人生のサイドストーリーの中に必ずあるんだよ。大学に合格した、彼女と付き合った、別れたっていうのを思い返すと、当時、プロレスでなにを見ていたかが、必ずある。“あのとき猪木さん、ベイダーにぶん殴られて死んだかと思った”とか、ずっと記憶に残るんだよ」

――著書のなかには、プロレスに限らず教訓となるようなことがたくさん出てきます。ある選手について、「(ファンに)好かれようとする態度がダメだ」と。

「日常生活でも、好き好き言ってこられたら、“は? 俺はお前のこと好きじゃねーし”って思うよな。好きだったとしても、飽きるよな。ファンとは近すぎちゃいけないんだよ。レスラーもファンも勘違いするから。友だち感覚になると、イチイチ苛立ったり、裏切られた感がでてくる。選手が結婚したら、もう応援しないとかな。俺はファンを信用してねえよ。共感しようとも思ってない。ただ与えようとしているだけだ。あくまで俺のプロレスを見せているだけ。それがいいか悪いかを判断するのは、ファンだ。それでもついてくるっていう自信が、俺にはある。

 もちろん、昔からこうだったわけじゃねえ。こんな本を出せるレスラーじゃなかった。クソみてえなレスラーだった。人を信用してねえし、人から信用もされねえし。金取れるレスラーでもねえし。そんな奴が、右往左往しながら、もがき苦しみながら、いろんな人に出会うわけだ。そうして見つけ出したのが、いまのスタイルだ」

――いつ頃からいまのスタイルになったのでしょうか。

「新日本プロレスの業績が落ちたときだな。2007年、2008年くらいだ。それまではある意味殿様商売だったのが、総合格闘技が出てきて、人気が低迷した。大量離脱があって、俺も辞めようかと考えた。でも、辞めるのは簡単だけど、会社が潰れる前に辞めるのは逃げることだ。俺が一番嫌いなことだ。そう気づいて、俺の理想とするプロレスを作り上げようと思ったんだよ。威張り散らしていた先輩たちのプロレスが、クソの役にも立たねえことが分かったからな。俺が思い描いているプロレスで、全部ひっくり返してやろうと思ったんだよ。

 その頃、会社にプッシュされていたのが、棚橋(弘至)であり、中邑(真輔)だ。俺の後輩なわけだ。あんときは、あのクソ野郎ども、引きずり下ろしてやろうと思ったよ。恨みにも似た反骨心だな。ターゲットになったのが、中邑だ。あいつも悔しいから俺に反発する。コメントでいろんなことを言ってきたが、俺は全部、完璧に論破して引きずり下ろしてやった。だからあいつ、徹底的に下まで落ちた。そして俺はベルトを巻いて上に上がった。しかし、だ。中邑はそこから上がってきたんだよ。これがどういうことだか分かるか? 本物だっていうことだ。本物のレスラーは、落ちても必ず上がってくる。

 中邑の“くねくね”っていうスタイル。最初は“気持ち悪い”“なんかヘン”ってみんな言ってたんだよ。あいつも、くねくねからどうしたらいいか悩んだだろう。それがまさかの“マイケル・ジャクソン”だ。そしたら、バンバン称賛を浴びた。真壁刀義よりも、入場で沸かせたのは中邑だったんだ。俺が認めたらいい選手、俺が認めなかったらクソだ。あいつも分かってるんじゃねえかな」

――本の巻末には、中邑選手とのツーショットが掲載されています。それを見たファンからは、喜びの声が上がりました。

「あれだけ、いがみ合っていた2人が、ってな。プロレスを長く見ていると、こういうことも起こり得るんだよな」

――新日本プロレスの選手たちについて、かなり的確な分析をされています。

「一番大事なのは、損得関係なく、正しいか悪いか、自分で考えられるかどうか。そこに男を張れるかどうかだ。だれでもそうだろ。これやったらモテるよな、電話番号ゲットできるよな、でも彼女が傷つくかな、でも自分が黙ってたら傷つかないよな、とかな。そういう奴は信用できないだろ。プロレスも対“人”なんだよ。信用させることができるかどうか。小手先でやったところで、だれも信用しない。本気で試合をするから、本気で認めてくれるんだ。その気持ちがあるかないかだよ」

――「人の心は簡単に揺れない」と書かれています。

「狙って揺さぶられるものじゃないんだ、人の心って。演劇だったら、三段落ちで“ここでクライマックスがくる”っていうのが分かるから、泣けるんだよな。だけど、プロレスは泣かせることがすごく難しい。プロレスを観て泣けるっていうのは、レスラーの素の感情が見えたときなんだよ。そこに計算があったら響かないんだ、絶対」

――「人間性を見ている」とも。

「人間性がよくない奴の作品、いいと思うか? 技術があれば、いい作品を作ることができるかもしれない。いい試合ができるかもしれない。だけど、人間性がよくないとそいつのこと信用しないし、評価もしたくないよな。実際、そういうのが表れるんだよ。目は口ほどに物を言う。目つき悪い奴にいい奴っている? 絶対いねえから。最初は警戒していたとしても、話してたら柔らかさが絶対でるから。ああ、やっぱりなって思うんだよ」

――プロレスをまだ観たことがないという人に、プロレスの魅力をどう伝えますか。

「プロレスを観たことがない人、プロレスを観たくないと思っている人。そいつらに俺様のプロレスをお見舞いしてやりたいよね。お前が毛嫌いしているプロレスを目の前で観たときに、お前どう思うんだ? って聞きたいね。プロレスつまんないって言ってる奴には、お前の人生つまんねえなって言いたいね。

 テレビで観るプロレスの迫力って、実際の会場の10分の1、いや20分の1以下なんだよ。音とか、息づかい、汗のしぶき。そういうのを全部、生で見てもらいたい。そのときに、“こいつらバカじゃねえの?”と思ったら、もう一回観にきてほしい。すげえとか言う前に、バカじゃねえかと思わせたい。だってバカじゃん、打ち合いにいくなんて。でもそこがカッコいいんだよ。観たことがねえ奴が評価するなんて、100年早えよ。そういうことだ」

 なぜいまプロレスが人気なのか。なぜこんなにも惹かれ、心揺さぶられるのか。いろいろな要素があると思う。しかし今回インタビューをして思った。理由なんていらない。真壁刀義が面白いって言うんだから、面白い。そう思わせる力強さが、そのままプロレスの魅力なんだと思う。「いまの日本にはプロレスが必要」という言葉。真壁の“俺様”な哲学から感じ取ってほしい。

取材・文=尾崎ムギ子