担当編集が次々代わる…! ジャンプ黄金期を生きた「外様」漫画家の奮闘記!!

マンガ

公開日:2016/4/1


『連載終了! 少年ジャンプ黄金期の舞台裏』(巻来功士/イースト・プレス)

 漫画を愛する多くの男性諸氏において『週刊少年ジャンプ』を知らない人は稀だろう。現在でも週刊少年誌の中で発行部数はトップであり、連載漫画で『ワンピース』や『ハイキュー!!』などアニメ放送されている作品も数多い。世代を超えて愛されている雑誌なので、その黄金期を問われれば人によって千差万別のはずだ。

 最大発行部数653万部を記録した1990年代を挙げる人が多いと思うが、個人的にはその一世代前となる1980年代を推したい。この時代、連載作品に『聖闘士星矢』『ドラゴンボール』『北斗の拳』など、現在でも関連作品がヒットしている伝説の漫画が名を連ねていた。その中にあって自らを「外様の野育ち」といいながら奮闘した漫画家――それが巻来功士氏である。『連載終了! 少年ジャンプ黄金期の舞台裏』(巻来功士/イースト・プレス)では、自らの漫画家人生を明るく、時には悲しいタッチで回顧。ジャンプ黄金期の裏側を垣間見ることができる貴重な自伝だ。

 自身を「外様」と語るように、巻来氏のデビューは『週刊少年ジャンプ』ではなかった。デビュー前は九州の大学に通い、雑誌に漫画を投稿する日々を過ごしていた。そして小学館の雑誌で投稿作が佳作に入賞。いよいよ漫画家デビューかと喜んだものの、その雑誌があえなく休刊してしまう。その後、大学を中退して上京。偶然に持ち込んだ『週刊少年キング』で編集者の目に留まり、ついに連載デビューを果たす。順調に進むかに思われた漫画家人生だったが、なんと掲載誌がまたもや休刊。こうした紆余曲折を経て、いよいよジャンプへ作品を持ち込むことになる。

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 最初に出会った担当編集・ホリエ氏の下で漫画を描き続けた巻来氏は、『フレッシュジャンプ』に掲載された読み切り作品『サムライR』で好評を得る。そして原作付きではあったが、『機械戦士ギルファー』でジャンプ本誌での連載がスタートした。ところがここで、なんと担当がホリエ氏からマツイ氏に交代。そして『ギルファー』も連載10回であえなく終了となるのだった。

 この後、マツイ氏と新連載のアイディアを練っていた巻来氏は「少年誌の常識をブチ壊す」ような作品を求められる。その発想の元、生まれたのがあのカルト的人気を誇る『メタルK』であった。「友情・努力・勝利」のジャンプ連載陣に「エロ・グロ・バイオレンス」で対抗したのだ。しかしマツイ氏の言葉によれば「この漫画を嫌っている人が編集部にいるかもしれない」という。そのため短期終了は既定路線だったようだ。それでも人気は徐々に上がり、終了か継続かが会議に諮られるも、やはり10回での終了が決まるのだった。

 実は巻来氏、以降もたびたび担当編集が代わっている。『ゴッドサイダー』連載中にマツイ氏からクンタ・スズキ氏、クンタ氏からマツイ氏に戻ったかと思ったら、今度はK氏に交代。ところがK氏との相性はあまりよくなかったようで、業界ではタブーといわれている「担当交代」を直訴する。しかし新たな担当は右も左も分からない新人で事態は好転せず。ついに巻来氏は少年漫画誌から、舞台を青年漫画誌へ移すことになる。

 確かに巻来氏の作品は好き嫌いの分かれる作風ではあったが、受け入れられないほどではなかったと思う。ではなぜ多くが短命に終わったか。やはり頻繁な担当交代がその一因としてあったかもしれない。担当のひとりであったホリエ氏は対談で「巻来君は縦糸の人」だったと語る。「縦糸」とはストーリーライン、つまり物語作りのこと。対して「横糸」は演出やキャラクター作りを指す。巻来氏はストーリー作りが巧みで、実は編集が手伝えるのもこの部分だという。だから彼の担当は「自分は必要ない」と感じていたのかもしれないと分析している。

 もし巻来氏とじっくり向き合える担当編集が付いていたら、長期連載は可能だったろうか。答えは誰にも分からない。だがそれでも、巻来氏が『ゴッドサイダー新世界 ベルゼバブの憂鬱』の制作費用をクラウドファンディングで募った時、見事に目標金額を達成した。それだけのファンが支えてくれているのだ。漫画家にもタイプはある。縦糸が得意ならその特性を生かして、魂に響く漫画を描き続けていただきたい。

文=木谷誠