偉人版しくじり先生!? 野口英世が語る、3度もノミネートされながらノーベル賞を受賞できなかった理由

ビジネス

公開日:2016/4/1


『退屈な日常を変える偉人教室』(五百田達成/文響社)

 偉人が偉人であるゆえんは、その人の生き方に学ぶべき点があるから。そのため、偉人伝を読むとき、成功した部分ばかりを注目して読む人が多いのではないだろうか? もちろん、成功するためのコツをつかむためにはどうやって成功したかを知ることは大事だ。しかし、自分の生活に活かす形で偉人たちの生涯を見て学ぶなら、問題解決の手法をしっかり見た方がよいだろう。そこで、トラブルを前に偉人たちはどのように考え、どのような行動をとったかという点を偉人自らが語ってくれる「偉人版しくじり先生」のような本『退屈な日常を変える偉人教室』(五百田達成/文響社)を紹介したい。

偉人自らが語るのは単なる武勇伝ではない!

 この本は、偉人自らが自分自身の生涯について語るというスタイルで書かれている。そのためタイトルが『偉人教室』なのだ。まるで有名人が自分の人生について語る人気テレビ番組のような作りであるため、難しい本は苦手というような人でも気軽に読むことができる。既に死んでいる偉人たちが授業をしてくれるせいで、ところどころ「私はこうして死んだのだが」とか「私の死後、こうなったのだが」などという場面が出てくるが、それはそれでご愛嬌だろう。

 偉人が自分のよい部分について、こうしたからうまくいったのだと教えてくれるものもあるが、読んでみてためになるのは、まさに「偉人版しくじり先生」のごとく、偉人が自分の人生を反省しながら話す内容。「ここでこうしておけば失敗せずに済んだはずだから、あなたは気を付けて」などと話すのもおもしろい部分だ。

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偉人も人の子? 野口英世の意外なダメっぷりに唖然

 数々の偉人の授業の中でも衝撃的なのは野口英世の話だった。野口英世は、自分がノーベル賞に3度もノミネートされながら受賞できなかった理由を、お金にルーズで、情けをかけてくれた人の気持ちを裏切り続けてきたためだと語っていた。留学のために援助してもらったお金を、留学前に飲み代として使ってしまったり、援助を引き出すために結婚する気もないのに婚約したりと、これまでの野口英世像がガラガラッと音を立てて崩れそうな話も語られている。そして、「野口に賞を取らせてやろう」と周りの人が動いてくれるくらいの人間関係を築けなかったことを悔やんでいた。自分だけがスポットライトを浴びる人生を考えるよりも、自分にスポットライトを当ててくれるサポーターを増やせるような生き方をしてほしいと語りかけるのが、この本の中で一番のしくじり先生の言葉として響いた。

杉田玄白が明かす平賀源内が身を滅ぼした理由

 自分のことを語る偉人が多い中で、杉田玄白は平賀源内のことを語っていた。杉田玄白とは江戸時代に『ターヘル・アナトミア』を翻訳し、『解体新書』を出版した蘭学者、平賀源内は同時期にマルチな才能を発揮した発明家だ。平賀源内は器用貧乏過ぎて、天才でありながら1つの道を極められなかったと杉田玄白は言っている。平賀源内は突飛な発想を受け入れてくれない人々に対し不満を募らせ、人間不信に陥ると、被害妄想で殺人を犯し、最後は獄中で罪人として死んでいく。平賀源内の生き方について、1つの世界を極めた人としての意見を杉田玄白に述べさせているのは演出としておもしろかった。

エジソンが語る本当の努力とは?

 エジソンが語ったのは「努力」についてだった。努力の仕方についてではなく、努力という言葉の捉え方についての話だ。エジソンは、「努力したのに報われない」「がんばっているのに先が見えない」などと言う人は努力という言葉の捉え方を間違えていると言っている。悲壮感があり、がむしゃらに突っ走るだけのものを努力というから報われないと辛くなる。そんな努力の仕方では続けられないしやっていることが楽しくなくなってしまう。勇猛果敢にアタックするワクワク感と、万が一失敗したときにその失敗をバネにして次に進むための切り替え術の両方を兼ね備えた努力が夢をかなえるためには必要なのだと語っている。

クック船長曰く、当の冒険家は冒険しない!

 死を恐れず危険を冒して航海するのが冒険家だとしたら、生涯で3度の長期航海を経験したクック船長は冒険家ではない。実は、大冒険をしたはずのクック船長の授業は「命の守り方」についてなのだ。

 大航海時代の頃の船乗りの平均年齢は25歳。体力が必要な上に、生きて帰ってくるのも難しかった。その当時船乗りの最大の敵は「壊血病」だった。ビタミンC不足で起こる死の病だ。インド航路を発見したことで知られるバスコ・ダ・ガマの航海など、180名の乗組員のうち100名が壊血病で死んでいるというのだから、嵐で船が沈没して死ぬよりも壊血病で死ぬ確率の方が高かったのかもしれない。クック船長の最大の成果は、壊血病での死者を1人も出さずに航海したことだった。

 また、島などを発見した時には原住民と戦わないためのルールを作っておき、何か事件が起こったら、同じようなことが起こったときに活かせるように記録を取っておくということを始めたのもクック船長だった。つまり、何か問題が起こったらその原因を考えて対策を講じ、むやみに争いを起こさないようにし、経験を活かすことができるように記録を取っておくということを実践したのだ。クック船長のことをただの冒険家だと思っていた人も、この本を読んだらぜひ上司にしたいと思うかもしれない。

文=大石みずき