目指すは読書家、ではなく“読書家キャラ”!? 読書家だと思われたい読書嫌いの奮闘コメディ

マンガ

公開日:2016/4/1


『バーナード嬢曰く。』(施川ユウキ/一迅社)

「読書家」というと、“知的”“博識”といった、割と良い印象を持たれやすい。中でも、本当の本好きしか読まなそうな、分厚い、難しい本を読んでいる人を見ると、その人がどんな人か知らなくても少しかっこよく見えたりする。しかし、そういった「読書家」というポジションに憧れてチャレンジしてみたものの、続かなかった、という話も聞く。やはり、本当に本が好きでなければ、「読書家」になるのは難しいようだ。

 そんな、読書は苦手だけど読書家には憧れる、という人の最終形態のようなキャラクターを描いている、何かと笑える本を見つけた。この『バーナード嬢曰く。』(施川ユウキ/一迅社)という漫画は、メインキャラの1人、町田さわ子が「読書家キャラ」になるべく奮闘するギャグコメディだ。

 バーナード・ショーに影響され、自らのことを「バーナード嬢って呼んで」と提案してくる通称“ド嬢”は、「読書家」に憧れるけど読書はめんどくさい、という人間の1人。しかし彼女は、それでは終わらない。肝心の読書という過程をすっ飛ばして、「読書家キャラ」になろうと必死なのだ。

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 例えば、毎日のように図書室に通い、誰かが見ている時だけ本を読んでいるふりをする。そして図書室へ来る人に話しかけては、読書家っぽい独り言を呟き、相手を困惑させる。しかし、所詮は見せかけ。それすら長くは続かず、結局すぐダレる。それでもまた、次の日も果敢にチャレンジする。

 他にも、ド嬢はとにかく読書をせずに読書家っぽさを出そうと、あらゆる方法を試す。名言集で名作の名言を収集したり、語呂合わせでタイトルと内容を覚えようとしたり、読書家っぽいセリフを考えてみたり……。

 このド嬢だけでも十分強烈なのだが、SF小説好きの読書家・神林しおり、図書委員・長谷川スミカなど、他のキャラクターたちも個性派ぞろい。神林はSFの話になると止まらなくなり、持論を熱く展開し、SFのコアなファンにしか分からないギャグを挟んでくるなど、割と末期な空気を漂わせている。しかし彼女も実際以上にSFオタクに見られたいと思っている節があり、たまにド嬢に共感したりもする。

 そして一見おとなしくて内気そうな風貌の長谷川は、実は一番の本オタク。ホームズが大好きで、神林にすら「マニアメンドくさっ」と思わせるほどの強者だ。そして彼女は、同じく図書館に通い続けている主人公・遠藤に想いを寄せていて、遠藤がド嬢目当てでやってくることに密かに嫉妬しつつ、遠藤の趣味に探りを入れている、自称“ストーカーのストーカー”でもある。

 これだけ聞くと、ただのオタクなギャグストーリーに思えるが、しかしよくよく考えてみてほしい。ここまでひどくはなくても、似たような経験がある人も多いはずだ。人づてに聞いただけの本を、さも読んだかのように話したり、実際以上に読書をしているように装ったり、というのは、実は「本好きあるある」でもあるように思う。神林のように、好きだからこそ、その域に到達していないのが悔しい。好きだからこそ、本物の仲間入りをしたい。そう思ってしまうのかもしれない。『バーナード嬢曰く。』には、そんな、読書好きも、読書家に憧れる人もじわっと共感できる、かっこいい「読書家」のイメージを揺るがす恥ずかしい“あるある”が詰まっている。

文=月乃雫