直木賞作家・北村薫が酔っぱらい女子の小説を書いた理由

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/28

直木賞作家・北村薫の最新作「飲めば都」(新潮社)は、酒飲み女子の物語だ。 甘いものが好きで、お酒を飲むと酔っぱらう前に気持ちが悪くなってしまうという北村さん。なぜ、こんな話を書くことになったのだろう。
  
「もともとは、ある人が帰ったら、家族がバットを持って階段の上に立っていたという話を聞いたんです。なぜかというのがおもしろかったので、酔っぱらいのアイデアと組み合わせて、短編を書こうと考えました。取材のためにいろんな出版社の編集者に、酔っぱらい体験談がないかどうか訊いてみると、出るわ出るわ(笑)。これは長編になるということで、連載をはじめたんですね」
  
主人公の小酒井都は、文芸誌の編集者。酒はかなりいける口だが、酔っぱらうと記憶をなくしてしまう。よく飲みよく働く彼女の日常と、周囲の人々の酒にまつわる武勇伝が語られる。 靴を脱いで銀座の街を走ったり、夜道で身を守るために吐きながら歩いたり、なぜか特大パスタを買って玄関に置いたり……。
  
酔っぱらいの行動の一つひとつが可笑しい。しかも、ほとんどが実話だという。 ビールから蓮の茎を通して飲む「象鼻酒」まで多様な酒が登場し、原稿のやりとりや文学賞の「待ち会」など出版業界の舞台裏も垣間見える。 読み終わると、酒を飲みながら、自分の酔っぱらい体験や、好きな本について語り合いたくなる。 「で、翌朝になったら『きのう何話したっけ?』ということになったりしてね(笑)」と北村さん。
  
酒と本を愛する人にとっては、読み逃せない作品だ。
  
(ダ・ヴィンチ7月号 今月のブックマークより)