「新宿」とつく駅名は10もある? サグラダ・ファミリアより長く続く工事の理由は? 新宿駅の謎を徹底解説!

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公開日:2016/4/8


『新宿駅はなぜ1日364万人をさばけるのか(SB新書)』(田村圭介、上原大介/SBクリエイティブ)

 1日の乗降客数が世界一でギネス記録に登録されている新宿駅。改札や出口を探して迷ったことがある人も多いのではないだろうか。かくいう筆者も相当な方向音痴なので、迷ったことは数知れず…。友人との待ち合わせ場所に辿りつけなかった苦い思い出もある。正直なところ、できるだけ新宿駅は使わないようにしているが、仕事でもプライベートでも、避けて通れない場所でもある。

 そこで、今回ご紹介したいのは『新宿駅はなぜ1日364万人をさばけるのか(SB新書)』(田村圭介、上原大介/SBクリエイティブ)だ。新宿をゲーム化したアプリ『新宿ダンジョン』の制作者である上原大介氏と建築士の田村圭介氏が、新宿駅という迷宮を様々な角度から解説している。

 事の発端は、上原氏の新宿駅での“遭難”体験。記憶していた場所に、あるべき店が見つからず、迷っている時に「ドラクエの迷宮(ダンジョン)」のように感じたそう。記憶にあるルートを辿ったのに、いくら歩いても目的地に到着せず、その空間がゲームの世界のように見えたのだ。これがきっかけとなり『新宿ダンジョン』の制作を決意する。

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 この時、上原氏は地下鉄丸ノ内線の新宿駅で下車した後、迷ってしまったのだが、田村氏はこの理由を“空間構造”と“絶望的な内装”にあると指摘。丸ノ内線の新宿駅は「島式プラットフォーム」という形式で、ホームの両端からそれぞれの改札につながっている。そのうえ、ホームから階段、改札、通路と内装がすべて同じであるため、ホームで方向感覚を失うことが多い。つまり、上原氏は、改札が1つだと思い込んでおり、前回と別の改札を出たにもかかわらず、内装に違いがないため気付くことがなかったというわけだ。

 さらに、新宿駅をダンジョンたらしめているのは、地下通路。新宿駅の周囲には、駅名に「新宿」とつく駅が9駅もあり、そのうち6駅が地下通路で新宿駅と繋がっているのだ。ちなみに、この6駅を含めた1日の平均乗降客数は、田村氏の計算によると約390万人となり、ギネス記録を上回る。

『新宿ダンジョン』制作のため、上原氏は、その後3回新宿駅を訪れ、自ら歩きながら正確な地図を作成した。そして最後に、ゲームの中での仕掛けや、再現度を高めてリアル感を出すために、4回目の調査を行い、新たに1つ地下通路を発見して、地図を完成。しかし、時間が経過すると新たな工事が入り変化してしまうため、念のためもう一度確認すると、まるで隠し通路のような(!)臨時口改札を見つけたそうだ。本書に写真が掲載されているので、興味のある方は、ぜひ探してみてほしい。

 今回ご紹介したのは本書のごく一部。他にも、歴史的な観点からの新宿駅の構造、新宿駅の利用者層、新宿駅の工事がサグラダ・ファミリアよりも長い理由など、様々な角度から新宿駅というダンジョンが解説されている。自身の遭難体験をきっかけに、実際に歩いて新宿駅の全容を解明しようとした上原氏の熱意には、ただ脱帽するばかり。新宿駅で迷ったことのある人なら、その時の苦労話にも共感できること間違いなしだ。一方、田村氏は建築士らしい視点で、理路整然とした説明をしてくれている。新宿という土地の歴史や役割にも言及しており、納得の解説だ。

 東京で移動する時には、利用する可能性が非常に高い新宿駅。今より快適に利用するために、本書を参考にしてみてはいかがだろうか? 本書の情報をベースにして、今後の新宿駅の進化を記録してみるのも面白いかもしれない。

文=松澤友子