太田光の処女小説『マボロシの鳥』の絵本版にケロヨン登場のわけ

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/28

 爆笑問題の太田光の初小説集『マボロシの鳥』が絵本として発売された。 しかも、絵本化を手がけたのは、日本を代表する影絵作家・藤城清治
  
「太田さんの小説を読んだ瞬間、あっ、絵になると思ったんですよ。いつの時代か、どこの国かも分からない場末の小さな劇場で、群衆がいっぱいいる。強欲な支配人がいて、そこにチカブーっていう芸人が出てくるっていうね、最初の設定がまず面白い。僕も絵を描きながら芝居をやってたから、劇場だとか芸人の空気はよく知ってるんです」
  
「この話は、自分じゃなくちゃ絵にできなかったんじゃないかな」と、笑顔を見せる藤城さん。制作期間3カ月弱で、一気に全40枚を描き上げたが、「普段は調子がのらないようなこともあるんだけど、この期間はほとんど、毎日(影絵を)切ってましたね。毎日毎日、のってたって感じで」。
  
 印象的な一枚がある。
  
物語の後半、チカブーは路上で、とある絵描きと出会う。彼が売り出している絵の中に、かつて藤城が創造した代表的なキャラクター、ケロヨンや小人、猫や孫悟空が、こっそり登場しているのだ。藤城の作品世界と、太田光の作品世界が、ここで確かに手を繋いでいる。「これは太田さんの世界であるけど、僕の世界でもあったんだなって気がすごくするんです」と、藤城は満面の笑みを浮かべて言う。
  
「情景とか登場人物、小道具、雰囲気、『世界はつながってる』というテーマもね、全てが自分の思ってる世界そのものっていうかね。僕は今までいろんな絵本を出してるけど、一番力を入れたことは間違いないと思うし、ある意味で一番今が、経験を積んでるし、充実しているし。影絵を始めて60年ぐらいの、僕自身の歴史を総括するような作品ができたと思っています」
  
 世界にその名がとどろく影絵作家渾身の『絵本マボロシの鳥』(講談社)は大注目の1冊だ。
  
(ダ・ヴィンチ7月号 davinci pick upより)