嫌われたくないから、NOと言えない…。そんな私を変えたい! 心の成長を描いたコミックエッセイ

コミックエッセイ

公開日:2016/4/12


『NOと言えなかった私』(武嶌 波/イースト・プレス)

 NOと言えない方、実際どれくらいいるだろうか。日本人は特に「できない」「いやだ」といった否定的な言葉を、相手に表すのが苦手な方も多いだろう。

NOと言えなかった私』(武嶌 波/イースト・プレス)は、NOと言えなかったために、イライラを積もらせ、相手を逆恨みし、そんな自分に自己嫌悪する毎日だった著者が、「これではいけない!」と奮起し、成長していくコミックエッセイである。

 著者は夫と一人の娘を持つ母親である。元々対人関係が苦手で、人と会うとどっぷり疲れてしまったそうだが、それも相手に合わせてNOが言えないから。はっきり意志表明ができないのは、他人だけではなく、夫や、まだ幼い娘に対しても同じだった。買い物中、娘が欲しがる物を「ダメ」と言えずに全て買ってしまったり、家事育児で忙しい時に、夫に「手伝って」「助けて」が言えなかったり。

advertisement

 そんな生活の中、著者はイライラを募らせていく。

 そもそも、どうしてNOが言えないのだろうか。「自分を変えたい」と一念発起した著者は、過去を振り返ってみる。すると、その原因は幼い頃の家庭環境にあると思うようになる。

 著者は以前、『私がダメ母だったわけ』(イースト・プレス)というコミックエッセイを出版している。これは、子どもを産んでから無性にイライラするようになり、自己嫌悪を抱えた著者が、その原因は「子どもと私」ではなく、「母親と私」にあるのでは? と思い到ったことから始まるものだ。

 そんな著者は、再び過去を振り返る。母親は「こだわりの強い人」だそう。「手足を洗いなさい」と言われ、足から洗っていたら「手から洗うんだ!」と怒られたり、寝る前には「必ず」トイレに行きなさいと半強制されたりと、とにかく「日常にNOという選択肢がなかった」とか。更に、母親に褒められたい、受け入れてもらいたいという願望は小さい頃から持っていた。しかし、実際は「心理的に頼れる」「受け止めてもらえた」と思うことは乏しかったそうだ。

「積極的にNOと言えなかった環境だったのだ」と気づいた著者は、「じゃあ、これからNOと言える経験を積んでいこう!」と考えるようになる。

 そこで出会ったのが、行動分析学のスペシャリストで臨床心理士の奥田健次先生。日本全国各地を回り、教育相談を受けており、『拝啓、アスペルガー先生―私の支援記録より―』(飛鳥新社)といった著書を出版されている方だ。

 奥田先生と出会ったことにより、著者は自分の生き方を見つめなおしていく。

「つらい時こそしんどい道を」という教えを元に行動すると、やりきった時に「素直に自分を褒められる」ようになり、自分への自信へと繋がった。また相手の要求に対して「断り」が言えるようになったり、反対に、相手に対して不満を口にできるようになったりしたら「自己主張がんばりカード」にシールを貼るという「ポイントカード」(30個シールを集めたら自分へのご褒美!)を作ることで、「『断る』こと自体が楽しくなってきた」とのこと。

 そうして行動分析学のアドバイスを元に、少しずつ自分を改善していくうちに、著者は自分が「すごい依存体質」であることに気が付く。相手に嫌われたくなくて、顔色ばかりうかがってしまう……それはつまり、「自分の幸せを自分ではない誰かに委ねている」ことになる。依存体質だからNOが言えなかったという側面があったことにも気づき、自分自身を「ださっ」と思ったという。

自分の道は自分で決める。そしてその結果を受け止める。責任を持って自分で自分を幸せにするんだ。自分を幸せにできるのは自分しかいないんだ!

 自分を肯定的に考えていなければ相手に「NO」とは言えない。そのことに気が付いた著者は、少しずつ「嫌われることを怖れて使っていなかった自分」を表に出すようにしていった。

 家庭環境や幼い頃の事情で、「NO」と言えなかった女性の、自分を変えていく様子が丁寧に描かれている本書。NOと言うのが怖いなら、一度読んでみてはいかがだろうか。

文=雨野裾