一番大切なのは生きて帰ること―命懸けの取材を行う戦場カメラマンの仕事術とは?

社会

公開日:2016/4/20


『戦場カメラマンの仕事術(光文社新書)』(渡部陽一/光文社)

 テレビでもおなじみの渡部陽一氏。独特の語り口が人気で、最近ではテレビ番組のナレーターも務めているが、彼の本業は戦場カメラマン。1993年以降、世界中の紛争地域で取材を行ってきた。

「戦場カメラマン」と聞けば、どんな仕事なのか、おおよそのことは分かるかもしれない。しかし、彼らが実際にどのように仕事をしているのか、具体的にイメージできるだろうか? 紛争地域などに赴いて写真を撮り、それを世間に発信する、というのはもちろんだが、そのためには、様々な準備やフォローアップが必要とされる。

戦場カメラマンの仕事術(光文社新書)』(渡部陽一/光文社)では、実はかなりきめ細やかな戦場カメラマンの仕事や、その現実が紹介されている。さらに、著者である渡部氏が戦場カメラマンを志した経緯や仕事をするうえでの心がけ、先輩ジャーナリストとの対談など、充実した内容だ。

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 命の保証のない戦場カメラマンという仕事。“撮ったものは必ず持ち帰って発表する”という任務を遂行するために、まず重要なのは信頼できるガイドを見つけることだそう。生きて帰るためには危機管理が重要であり、そのためには現地で生まれた信頼できるガイドの存在が必要不可欠なのだ。

 ガイドを探す際、渡部氏はその人の人柄を知って信頼関係を築くために、ドライブをしながらお互いのことを話したり、時には家族団らんに同席させてもらったりすることもあると語る。カメラマンだけではなく、ガイド本人も命を危険にさらすことがあるため、信頼関係が何より大切だ。

 信頼関係を築くために、もうひとつ大切なことがある。それは、マメであること。こまめに連絡をすることで、友人のような存在になることができるからだ。さらに、取材交渉を行う際にも、コツコツ連絡をとることで、許可が出ることもあると言う。

 綿密に準備を行い、危険な状況をくぐり抜けて写真を持ち帰っても、発表できなければ任務は遂行できない。そこで、フリーランスの戦場カメラマンに必要なのは、営業先を絞ること。渡部氏は、ここと決めたら担当者に会えるまで、何度でも訪ねたそうだ。あきらめずに粘り強く続けることで、少しずつ関係を作っていく。ここでも、ガイド探しと同様、マメであることが鍵となるようだ。

 取材中に命の危険を感じたこともあると語る渡部氏。それでも無事に帰って来られたのは、幸運だったからだけではない。過去に2回、絶体絶命のピンチに陥ったことがあるそうだが、そのどちらもガイドのおかげで命拾いしている。つまり、危機管理意識を持って、自分なりの信念に従い、時間をかけて綿密に準備を行った結果、自身が救われたのだ。

 本書を読んで印象的だったのは、テレビでのイメージどおりの非常に謙虚で真面目な渡部氏の人柄だ。だからこそ、数々の危険な取材から生還し、今こうして活躍しているのだろう。

 戦場カメラマンという仕事は、ある意味かなり特殊な仕事だ。しかし、本書で紹介されている内容は、フリーランスの方はもちろん、異業種のビジネスパーソンなど、幅広い層に当てはまるものばかり。どんな仕事でも、コツコツ真面目に努力を積み重ね、肝心なタイミングでは思い切った決断をする、ということが成功への鍵なのかもしれない。

文=松澤友子