SMバーの元女王様が説く、夫婦関係における「性癖の一致」の重要性

恋愛・結婚

公開日:2016/4/23


『亭主元気でマゾがいい!』(六反りょう/講談社)

 カップルや夫婦関係の円満の秘訣はなんだろうか? 食の好みや趣味、価値観の一致。一般的にはそう考えられているはず。けれど、なによりも大事なのは、もしかすると「性癖の一致」なのかもしれない。だって、『亭主元気でマゾがいい!』(六反りょう/講談社)を読む限り、それ以外考えられないのだ……!

 本作は、SMバーの元女王様である著者と、生粋のマゾ男である旦那さんとの馴れ初めを描いたコミックエッセイ。これ以上ないくらい性癖が合致したふたりの生活ぶりが、赤裸々にまとめられている一冊だ。

 ふたりが出会ったのは、もちろんSMバー。六反さんが女王様として働く店に、マゾ夫は新規の客としてやって来たという。そして、出会い頭に六反さんの「SMカウンター」が発動。彼を相当なマゾだと見抜いた六反さんは、初対面でいきなり亀甲縛りをお見舞いしたのだとか。その時、彼が興奮の絶頂にいたことは言うまでもない。

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 そんなふたりの生活では、普段からSM要素が満載。たとえば、六反さんが間違えて彼のお気に入りのカーディガンで手を拭いてしまったときのこと。普通ならば、「オレの服で手を拭くなんてひどい!」と怒るだろう。それはもちろん、マゾ夫も同様だ。けれど、そこで謝らないのが女王様妻としてのやり方。六反さんは、「おだまり! そのカーディガンと私の手、どちらが大切なの?」と上から目線で言い放つ。その結果、マゾ夫は「もちろん、先生のお手々でございます。僕のカーディガンは先生のタオルです」と、見事なまでのマゾっぷりを発揮したのだ。

 普通ならばケンカに発展するシーンも、このようにSとMがはっきりしていれば、プレイの延長としてその場を円滑におさめることができる。これはもう、夫婦円満の秘訣以外のなにものでもないだろう。

 ただし逆に、マゾ夫に対して弱い姿を見せてしまうのは禁物。たとえ、一緒に買い物へ行く 約束を破られてしまったとしても、「ひどいよ~(泣)」などとメソメソしようものならば、「グズグズしないでくれる?」とシャットアウトされてしまう。マゾ夫は、あくまでも女王様然とした女性を求めているのだ。この場合の正解は、「あなたに私のものを選ばせてあげるって言ってんのよ?」。常にSッ気が肝心なのだ。

 また、マゾ夫になにか注意をする際も、塩梅を間違えると、注意=ご褒美だと受け止められてしまう可能性が強い。仮に最近太ってきたことを咎めるのであれば、「豚!」なんて言葉は逆効果。ただの言葉責めでしかない。そういうときは、「こんな醜い豚を連れて歩いたら、私のレベルが低く見られる。もう外で並ばないでくれる?」と冷たく言い放つのが効果てきめんなのだ。

 ここまで読んで、なんておかしな夫婦関係だろう、と思った人もいるかもしれない。けれど、彼らの生活はエンターテインメントに溢れていて、とても楽しそう。パートナーとの会話がない、お互い無関心、ただの惰性で付き合っている……。そういった別れにつながる要素は皆無。そう考えると、最高の夫婦関係と言えるのではないだろうか。恋人、結婚相手を選ぶ際には、「性癖の一致」を条件に加えてみてもいいのかもしれない。

文=五十嵐 大