女子必見! 「失敗だらけのおしゃれ」が笑いと共感を呼ぶ“ミエコ流”ファッションエッセイ

暮らし

公開日:2016/4/26


『おめかしの引力』(川上未映子/朝日新聞出版)

 川上未映子さんといえば、芥川賞、芸術選奨新人賞、谷崎潤一郎賞など、作品を出す度にビッグタイトルを獲得。一方でその美貌にも注目が集まり、女優として映画に出演、キネマ旬報新人女優賞を受賞。最近では自身の妊娠・出産・育児体験を綴ったエッセイも好評という、作家として、女優として、母として、まぶしすぎるくらいキラキラの“輝く女性、代表!”みたいな御方である。

おめかしの引力』(朝日新聞出版)は、そんなミエコ様(敬愛の念をこめてそう呼ばせていただく)が、朝日新聞紙上で2008年4月~2014年3月の間、月1回連載したファッションエッセイだ。さぞかしセレブなお話ばっかりなのだろうと思ったら、意外に「あら、ミエコ様も値段お高めのセレブ洗剤がもったいなくて、洗濯で使うタイミングを迷うなんて庶民的感覚をお持ちなのね」と、うんうんうなずきながら読みふける自分がいた。

 特に共感したのが、何十万、何百万もするけど購入せずにはいられない高額品に出会ったときに稼働する「日割り計算」。値札についた金額を余生の日数で割り〈「そっかあ、一日二四〇円かあ」〉と納得(?)し、気づけば両手に紙袋いっぱい。〈でもね、ドレスなんて数回しか着ないのである。一年のうち三五〇日は、普段着なのである。日割り計算、根本的に間違ってる〉と後悔。

advertisement

 何を隠そう、このエッセイは「わたしのおしゃれは失敗ばかり」がテーマなのだ。〈本当はおしゃれでもなんでもないわたし〉と語るミエコ様。テレビで見たハリウッドセレブのパーティーメイクを真似したら〈まんま「デビルマン」な人〉になったり、白・オレンジ・黒という、〈派手という言葉が思わず恥じらって目をそらしてしまうほどの、ものすんごい柄〉のエミリオ・プッチを着ていたら、友人から〈「おっ、きたきた、錦鯉」〉と笑われたり。メイクに下着にブランドに洗濯に部屋着に子供服まで、ミエコ節全開で鮮やかにおめかしを切り取っていく。一話が見開き2ページで読める手軽さも相まって、その疾走感はやみつきになる。

 もっとも、そこはミエコ様、ただ笑えるだけの「おしゃれ失敗談」に終わらない。時折ハッとするような視点と思考の鋭さを見せる。そもそも、タイトルが「おしゃれ」ではなく、「おめかし」である。ミエコ様曰く、〈「おめかし」は「おしゃれ」と違って、他人の承認が必要ではなく、自分だけで成立するもの、主体性がある〉もの。そう、本書にある怒涛の59編は、巷のファッション誌が「モテ服」や「モテメイク」を前提としているのとは一線を画し、「モテ」を意識しない視点で「おめかし」と向き合っているのだ。皆さま、本書を読んで、一度「モテ」のフィルターを外せば、自分のおめかしに新たな発見が期待できるやもしれません。

 カラーページでは、ミエコ様のコレクションの数々を見ることができるのも嬉しい。「錦鯉」のエミリオ・プッチってこれか!! でも「失敗」とか言って結局、錦鯉さえ素敵に着こなしてしまうのが、川上未映子なのである。

文=林亮子