空前の世界的ヒット! ブロードウェイミュージカル『ウィキッド』原作者が贈る、もう1つの『不思議の国のアリス』

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/15


『アリスはどこへ行った?(ハーパーコリンズ・フィクション)』(グレゴリー・マグワイア:著、富永和子:訳/ハーパーコリンズ・ ジャパン)

英語で「Alice‐in‐Wonderland」という形容詞は「現実離れした」「非論理的な」という意味を示すらしいが、ルイス・キャロル氏が描いた『不思議の国のアリス』の世界が「非論理的な」「現実離れした」世界だとはどうしても思えない。白ウサギ、チェシャ猫、狂ったお茶会、ハートの女王…。なぜあの不思議な世界はこんなにも私たちを魅了するのだろうか。『不思議の国のアリス』の世界はいつでも私たちの世界のすぐそばにあり、今も何かを訴えかけている。

あの不思議な世界に魅了されてしまった人たちに朗報がある。世界的大ヒットとなった『ウィキッド』の著者であり、NYタイムズ紙のベストセラー作家であるグレゴリー・マグワイア氏の最新作は、『不思議の国のアリス』の世界のアナザーストーリーなのだ。『アリスはどこへ行った?(ハーパーコリンズ・フィクション)』(グレゴリー・マグワイア:著、富永和子:訳/ハーパーコリンズ・ ジャパン)は、西の悪い魔女を主役にすることで『オズの魔法使い』をよみがえらせた『ウィキッド』同様、本家アリスの中では“友人A”にすぎなかった少女エイダの視点で、まったく新しい『不思議の国のアリス』を生み出すことに成功している。

舞台は、1860年代、ヴィクトリア朝中期のオックスフォード。夏のある日、唯一の友だちであるアリスの家へ出かけたエイダだが、アリスの姿はどこにもない。そう、アリスはあの不思議のウサギ穴へと、すでに落ちた後だったのだ。いったいどこへ消えたのかと探すエイダはアリスと同じ穴へと落ちてしまい、友人の後を追いながら奇妙な「不思議の世界」を漂うことに――。

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この作品には、『不思議の国のアリス』の世界ではおなじみのキャラクターたちの姿が数多く登場する。紳士のようにチョッキを着た白いウサギ、おしゃべりな薔薇、帽子屋、ハンプティ・ダンプティ、ハートの女王…。世界でも類を見ない「アリス好き大国」日本に暮らす我々なら、彼らが登場するたびに胸が高鳴ってしまうこと間違いなしだ。本作を読むときには、一見ちょっと不条理だが、ユーモアと示唆に富んだ彼らの金言にもぜひ注目をしてほしい。

そんな彼らの言葉や行動は、無邪気で天真爛漫なアリスとは対照的に、不自由な身体のせいでコンプレックスを抱え常識に縛られているエイダの目には、いったいどのように映ったのだろうか。自ら作った檻とコルセットに抑えつけられていた彼女の意志や想像力が、不思議の国での出会いや体験によって少しずつ息を吹き返していく様を、作者は焦ることなく淡々と描いていく。そうして少しずつではあるが、自らを縛るコンプレックスから自由にはばたく力と強さを見出していくエイダの姿は、なんとたくましいことだろう。

「それでもエイダよ。あなたがお気に召そうと召すまいと、私はエイダよ。
あなたがあたしから走って逃げても、それでもエイダよ。」

この物語は、決してわかりやすい言葉では書かれていない。何回も読み直して、何回も考えてみたい、いくらでも深読みのできる物語だ。だが、そうして読み終えた時きっと、あなたも、ありふれた毎日がほんの少し、愛おしくなるに違いない。

文=アサトーミナミ