「どちらが探偵さん?」「両方です」―ダブル探偵の共演が楽しいキャラミステリー

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/15

もしあなたがキャラクター重視のミステリー小説、いわゆる「キャラミス」の愛読者ならこの作品を見逃す手はない。
青崎有吾の新作『ノッキンオン・ロックドドア』(徳間書店)は、タイプの異なる名探偵2人の活躍を楽しめる要注目のキャラミス作品だ。

インターホンもドアチャイムもノッカーもない探偵事務所「ノッキンオン・ロックドドア」には、今日もトラブルを抱えた依頼人がやってくる。

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出迎えるのは、眼鏡をかけ紺色のネクタイをきりりと締めた片無氷雨(かたなしひさめ)と、夏でも黒いタートルネック姿、巻き毛が特徴の御殿場倒理(ごてんばとうり)。2人はここで同居生活を送っているのだ。

現場に出向いた2人は、「どちらが探偵さん?」「両方です」といったお決まりのやりとりを関係者と交わしながら、並はずれた推理力で事件の謎に迫ってゆく。

収録されているのは、密室で刺殺された画家、なぜか髪の毛を切られていた他殺死体、開かない金庫と路上で倒れていた老人の関係など、魅力的な謎を含んだ7つのエピソード。いずれも「平成のエラリー・クイーン」の異名を取る青崎有吾らしい、本格ミステリースピリット溢れる短編に仕上がっている。

この作品がユニークなのは、なんといっても探偵役が2人いるということだ。ホームズ&ワトソンならぬ、ホームズ&ホームズというわけだが、これにはちゃんとわけがある。

氷雨が得意としているのは、不可解な犯行現場、ダイイングメッセージなど事件の「WHY(なぜ?)」にまつわる分野だ。一方の倒理は密室トリックの解明など「HOW(どうやって?)」にまつわる分野で推理力を発揮する。

オールマイティではない2人の探偵が協力することで、初めて事件の真相が見えてくる、というのが本書のユニークなところ。ひとつの事件に「WHY」と「HOW」の両面から迫ってゆく本作は、1粒で2度美味しい、なんとも贅沢な作りのミステリーなのだ。

ホームズにモリアーティという宿敵がいたように、氷雨と倒理にも倒すべき相手がいる。それが数々の犯罪に関わり、事件現場にはバンド「チープ・トリック」の歌詞を残してゆく糸切美影(いときりみかげ)だ。

どうやら2人の探偵と美影、そして事件現場に現れては氷雨たちに悪態をつく警視庁の女性刑事・穿地決(うがちきまり)の間には、浅からぬ因縁があるらしい。

それは彼らが4年前、まだ大学生だったころに遭遇した難事件と関係があるようなのだが……それについて詳しく明かされていない。シリーズの続刊を待ちたいところだ。

他にも、随所にさしはさまれる小ネタの面白さ(懐かし駄菓子やミステリー、そしてなぜか海外ドラマ『フルハウス』)や、バディものとしての2人の絶妙な関係など、本作の魅力として語りたい部分は多々ある。

ポップなのにマニアック。キャラミスにして本格。そんな絶妙なバランス感覚で書かれたエンタメ世界をぜひ体験してみてほしい。

文=朝宮運河

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