貧困が蝕む性風俗の実態は、すぐ隣にある現実――友人、恋人、妻がカラダを売る時代『図解 日本の性風俗』

ビジネス

公開日:2016/4/27


『図解 日本の性風俗』(中村淳彦/メディアックス)

 現在、日本の貧困問題が深刻化している。世帯収入は10年前の20%減、非正規雇用率40%、単身女性の30%が貧困状態、生活保護受給者200万人突破……暗い数字ばかりだ。様々なデータやニュースを眺めれば、日本で格差と貧困が拡大し、女性を中心に普通に働いても人並みの生活が困難な現状がわかる。その混乱する日本の現状を、風俗嬢や性風俗業界の動向から解き明かすのが本書『図解 日本の性風俗』(中村淳彦/メディアックス)だ。

 著者の中村淳彦氏は「裸の女性は、社会を映した鏡である。子供の頃に『風俗嬢になるのが夢』と作文に書く女の子はいない。風俗嬢たちは自覚、無自覚含めて、そこで働く強い理由がある」と言う。

 日本は、終身雇用や年功序列などの「日本型雇用」によって世界に冠たる経済大国まで発展した。しかし、バブル崩壊後、日本型雇用は破壊され、「一億総中流」も過去の遺物となり、現在に至る格差社会の幕が開ける。バブル以前、格差が少なく景気の良い時代は、性風俗でカラダを売る女性はあくまでも少数派だった。風俗嬢になる女性は、借金や精神疾患を抱える、過剰な浪費癖がある、悪い男に騙されたなど、いわば一部の「ワケあり」女性だけだった。

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 しかし、失業率上昇、雇用悪化、世帯収入や実質賃金は下落の一途。格差と貧困が拡大した現在、「普通」の女性が生活のために、性風俗の世界へ続々と足を踏み入れる。高校や大学を卒業し、社会のレールに乗りながら就職や結婚、そして出産。常にマジョリティの中で「普通」に属した女性たちが、自らの意志で裸となり、性を商品としてお金を稼ぐ――そんな格差と貧困に喘ぐ女性たち、現在の性風俗の実態が解説されている。

 奨学金の返済のために吉原のソープランドで働く慶應大学の女子学生。生活費と長女の進学費用を捻出するため飛田新地で売春する40代のシングルマザー。家賃が払えずデリヘルの待機所に住みつく20代のホームレス女性。一人暮らしの費用を稼ぐつもりが気づけば援交業者の下で管理売春を強いられる19歳の元OL……。

 本書には経済的に困窮し、性風俗で働かざるをえない「普通」の女性が多く登場する。月5~6万円程度のお金が足りないため、女性が売春する現代の異常性を著者は重ねて警告する。さらに、性風俗市場では、働く女性の増加と男性客の減少により、需要と供給が崩壊。価格破壊により本番サービスを提供して客1人つき2500円しか稼げないなど、異常なデフレが進行。女性の最終手段である性を売っても、生活保護以下の貧困から抜けられない風俗嬢も大勢存在するという。もはや性風俗は女性のセーフティネットとしても機能していないのだ。

「常時30万人といわれる風俗嬢だけではなく、一度の売春などまで含めれば、裸やセックスを換金したことのある女性の数は膨大です。都市で生活をしていれば、会社の同僚、得意先、元同級生、近隣などなど、どんな人でもそれらの女性たちと、なにかしらの人間関係を経験しているはずです。自分には関係ない世界と思っていても、性風俗や売春は、すぐ隣にある現実なのです」。と著者はあとがきで性風俗の現状を総括している。

 本書は「風俗とは?」「風俗嬢はどのような女性なのか?」などの基礎知識を入門書的に解説、豊富なデータやイラストで図解した上で、働く女性の実態を通して貧困が蝕む日本の現状を読み解く。第1章のタイトルには「あなたの友人、恋人、妻がカラダを売る時代」という煽情的な見出しが躍る。本書を読み進めていくうちに、それが奇をてらった煽り文句でないことがわかる。性風俗の現場で起きている格差と貧困の問題は、我々のすぐ隣にある現実であると認識できるはずだ。

文=谷口京子(清談社)