しんどいのはあなただけじゃない!辛く孤独な新米ママに寄り添う妊娠・出産コミック

出産・子育て

公開日:2016/5/1


『れもん、うむもん! そして、ママになる』(新潮社)

 妊娠や子育てをお洒落に楽しむママタレントが増え、 育児雑誌も読者モデルの笑顔であふれている。しかし、現実はそんなに甘くはない。妊娠、出産の喜びが大きいぶん不安や悩みも大きくなり、特に一人目の場合、はじめて経験する不調や痛み、不測の事態やトラブルに、声をあげて泣きたくなることもある。東京23区では、2014年までの10年間で63人もの妊産婦が自殺していることも、東京都監察医務院などの調査で明らかになった(毎日新聞4月24日配信「<妊産婦自殺>10年で63人…東京23区 産後うつ影響か」より)。

 ところが日本の社会は、「母親なんだから我慢して頑張るのは当たり前。子育ては母親の責任」という考え方が主流で、産後の地獄のような辛さを聞いてくれる人も、サポートしてくれる人も、愚痴や泣き言を誰かと共有できる機会もまだまだ少ない。そのため、「母親なんだから」というプレッシャーに押しつぶされそうになり、自分だけがダメな親のように感じて、精神的に追い込まれてしまう女性も珍しくない。

 漫画家のはるな檸檬さんの『れもん、うむもん! そして、ママになる』(新潮社)は、そんな孤独な新米ママたちのために描かれた、妊産婦の本音が詰まったコミックエッセイだ。

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 たとえば「まえがき」の次のような一文を読んだだけで、「こんなに辛い思いをしているのは私だけじゃないんだ」「あの頃の私と同じだ」と共感する人もいると思う。

出産は、しんどかったです。全然そんなことなかったよ、というお母さんも沢山いるかもしれない。でも私には、涙が出るほどしんどかった。

何がそんなに辛かったかって、お腹も胸も頭も痛くて、だけど寝る間もなく子供の世話をしなくちゃならなくて、初めて命を預かるということが恐ろしくて、自分に出来るのか不安で、それでも母親として最善のことをしたい、何ひとつも間違ってはいけないという気持ちが強すぎてガチガチに緊張して、思うように出来ないことが悲しくて

 本編では、はるなさんが第一子の男の子を妊娠してから、産後2ヶ月を過ぎた頃までの出来事や心身の変化が細かく綴られている。

 妊娠編は、吐き気が止まらない食べづわり、腰痛、頭痛、妊娠糖尿病、逆子とマイナートラブルのオンパレード。それにもかかわらず、仕事がなくなることを恐れて臨月まで働かざるをえなかった辛さ。母体のための「休みどころ」と仕事の「頑張りどころ」の見極めの難しさなど、内面の葛藤がリアルに伝わってくる。

 出産、育児編となると、産後ズタボロになった身体に追い打ちをかける母乳問題や、ちょっとしたことで号泣する不安定な精神状態など、話はさらに深刻になっていく。ホルモンバランスの急変による、自分ではコントロール不能な「マタニティブルー」のはじまりだ。はるなさん自身も、自分が自分でなくなるような感覚と振り返っているように、ご主人とも口をきけなくなるほどの茫然自失状態、ずっと仲良しだった実母と泣き叫びながら大ゲンカしたエピソードなどは、経験者なら誰でも深く共感するだろう。

 もともとギャグ漫画家のはるなさんだから、クスッと笑える場面もある。しかし、本書で描かれている内容は、産後うつ一歩手前といっていいほど壮絶だ。出産経験がない女性や男性にとっては衝撃かもしれない。しかし、産後ママの苦しみをもっと多くの人が理解し、耳を傾け、手を差し伸べたら、妊産婦の自殺や虐待などの悲しい事件は少なくなるはずだ。

 産後の地獄のような試練を乗り越えてはじめて実感できる、光あふれる幸せと希望を描いた、本書の最後10ページは涙なしでは読めない。

文=樺山美夏