谷原章介が続編を熱望するあの人の一冊とは?

芸能

公開日:2011/9/5

「宮部さんの時代ミステリーはスピードの速い日々の中で心の澱を流してくれる一服の清涼剤」。
  
そう語るのは、劇場版ポケットモンスター ベストウィッシュ『ビクティニと黒き英雄ゼクロム』『ビクティニと白き英雄レシラム』で伝説のポケモン・レシラムの声優をつとめるなど、幅広く活躍中の谷原章介さん。
  
なかでも特に好きな宮部みゆき作品は、鰹、白魚、柿など、江戸を彩る“初もの”に事件が絡む『初ものがたり』だという。
  
「老境に差し掛かった主人公・回向院の茂七親分が味わい深い本作は、物の怪や特殊な力などの“不思議”を謎の装置として用いていない異色の作品。それだけに、宮部さんのミステリー作家としての力量が遺憾なく発揮されている。人々の心の機微も、より一層浮かびあがってくるような気がします」
  
人情、捕り物、活き活きとした庶民の暮らしぶり……。さまざまな要素がぎゅっと詰まった物語の中でも五感を刺激するのが、夜ぴって屋台を開いている稲荷寿司屋の料理の数々。
  
「誰かを探しているらしい稲荷寿司屋の親父の謎は、作中では明らかにされておらず、続きがすごく読みたくて(笑)」
  
そんな谷原さんが感じる、作家・宮部みゆきの素晴らしさとは?
  
「キャラクターに対する深い愛情ですね。冒頭の『お勢殺し』で娘を殺された病弱な父親が、のちに稲荷寿司屋の隣で酒を売り元気な日々を送っている姿を描くなど、登場人物たちの暮らす世界がずっと続いていることをさりげなく示してくれる」
  
刊行から16年。著者自身もあとがきで“いつか必ず、この物語を再開したい”と語っている『初ものがたり』は、続編が熱望される一作だ。
  
「そんな願いも込めたセレクトでもあります」
  
(ダ・ヴィンチ8月号 あの人と本の話より)