市場規模は約7兆6200億円! 現代アートの価値を決めているのは、業界を支配する「100人」

社会

公開日:2016/5/10


『巨大化する現代アートビジネス』(ダニエル・グラネ&カトリーヌ・ラムール:著、鳥取絹子:訳/紀伊國屋書店)

 あなたの身のまわりには、アートに大金をつぎ込み、それを資産として所有する人がいるだろうか……。「そもそもそんなお金はないし、仮に絵画や彫刻を買ったとしてもそれを飾る場所がない」というのが、私のような庶民の正直な反応だと思う。

 とはいえ、誰でも一度や二度は美術館で、古今東西のアート作品に触れたことはあるはず。それに、アートの展示やイベントは、日本各地の至るところで年がら年中開催されているのだから、アートは必ずしも庶民に縁のないものとは限らない。要は、そこに興味を持ち、価値を見出せるかどうかだ。

 本書『巨大化する現代アートビジネス』(ダニエル・グラネ&カトリーヌ・ラムール:著、鳥取絹子:訳/紀伊國屋書店)では、アート業界の構造を、第三者の目線から調査・解析している。中心となるのは、昔から競売が盛んなアメリカやイギリス、そして2004年頃から急速に発展を遂げ、2008年に世界の競売における総売上の3分の1を占めるまでになった中国。

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 2013年から2014年における現代アートの国別競売売上のトップ3は、中国の約810億7490万円が第1位で、アメリカは約744億6480万円で第2位、次いでイギリスの約311億6190万円となっている。また、2013年には現代アーティストのジェフ・クーンズの作品が約58億930万円で取引され、現存するアーティストによる作品の最高落札額を更新した。この現代のアート業界を動かす「100人」が存在する、というのが本書の肝のひとつである。

 その100人とは、その時代・業界で影響力や財力を持っている人々のこと。世界的に有名な巨匠の作品を多数所有する「コレクター」や、流行りの現代アーティストのほかブレイク寸前の若手の作品を売る「画商」、主に展示会の企画・運営を行なっている「美術館の学芸員」、若手アーティストを発掘し、プロモートする「アート・アドバイザー」など、彼らの立場はさまざまで、定期的に交流している。

 それは互いに情報を収集するためであり、また必要とあれば協力しあうためでもある。たとえば、ある大物アーティストの企画展を開きたいと考えた学芸員がいたとして、その人物はどの作品がどこにあるのか、誰が所有しているのかを知りたい。そうした業界内の最新情報は、そこに出入りする人々から得るのが確実な手段だ。また、学芸員が企画展をやりたがっているという話が業界で流れ、コレクターの耳に入れば、そこから取引に繋がっていくというケースもある。であれば当然、同じコレクターであっても、個々の権力や影響力は、その時々で変わっていく。

 この100人の力を毎年評価し、発表しているアート誌がアメリカ・イギリスにある。アメリカのアート・ニューズ誌は、市場を牛耳るトップ・コレクター200人の人名目録を、イギリスのアート・レヴュー誌では、業界で最も力のある100人の名士録を発表する。その判断材料は職種によって違う。アーティストや画商は売上、コレクターは入手した作品、美術館の学芸員は企画した展示会で、それぞれの力が判断される。

 100人の中の順位は常に入れ替わっているが、過去の巨匠の作品を買い集めるコレクターよりも、今生きて、新しい作品を生み続けている現代アーティストの作品を扱う画商のほうが強い影響力を持つ傾向がある。なぜなら、歴史的な名作・傑作のほとんどは、すでに公共物なので個人での所有が難しいため、ブレイク中のアーティストの作品をいち早く手に入れておくことが重要になるからだ。だからこそ権力を持つ100人の中には、アート・アドバイザーも含まれている。

 そんなアート業界の「生産者」であるアーティストは、実のところあまり力を持っていない。注目されるには、まず画商や権力のあるアート・アドバイザーに気に入ってもらい、売り出してもらわなければならないからだ。

「アートの世界はアートそのもののように複雑だ」という、まえがきの言葉どおりのことが、本書では描かれている。作者自身の知名度がその作品の評価に直結するアート業界。華やかな売れっ子アーティストたちの活躍の裏では、アーティストよりもはるかに力を持つ人々がいる――。その奥深さにハマれるか否かは、大金持ちかどうかとは無関係だ。アートの世界に興味を持ち、価値を見出せるかが重要なのだから。

文=上原純(Office Ti+)