大沢在昌の熱きメッセージ! 「どんなに細くなっても生き延びるんだ」

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/28

この20年間、一貫して警察小説のトップを走り続けてきた作品がある。大沢在昌の『新宿鮫』だ。  その第10作にあたる『絆回廊(きずなかいろう) 新宿鮫Ⅹ』(光文社)が刊行された。
  
 これまでの本シリーズでは、警察と暴力団という2つの「組織」がどのように対峙していくのかという主題が追求されていた。前作『狼花(おおかみばな)』は、その到達点と言える作品だったのである。
  
 「ただ2つ懸案事項が残っていたんです。それは組織を描く小説では書けず、鮫島が人生の中で直面した事態として書かざるをえないものでした。だから『絆回廊』は、原点に戻ったような鮫島個人の物語になったのです」と大沢さん。
  
 犯罪者からは新宿鮫として恐れられ、あまりの切れ味から同僚からも煙たがれた男・鮫島。しかし、〈新宿鮫〉の人物像も、シリーズ開始当初から比べると大きく変化した。  
  
 「この作品で突然出てきた変化ではありません。過去の作品でも、ゆっくりとカーブを描いてきた。鮫島の変化であり、作者自身の変化でもある。『新宿鮫』は、描き手の変化に一切嘘をつかずに続けてきたシリーズなんです」
  
 本書のクライマックスでは、ある人物が命を落とす。その重要な場面を書いた時期は、東日本大震災と重なってしまった。
  
 「現実に巨大な悲劇があったときに、架空の死、それを悼む架空の人物の心理というものが、どこまで説得力を持てるだろうかと思い悩みもしましたが、覚悟を持って書き続けました」
  
 今、現実に困難に直面している人に「がんばれ」というのは無責任なことかもしれない。だが、鮫島のように――。
  
 「しぶとくなってほしい、どんなに細くなっても生き延びるんだ、という気持ちはありますね。鮫島もこれから先どんどんしぶとく、したたかになって、彼の戦いを続けていくと思います」
  
(ダ・ヴィンチ8月号 今月のブックマークより)