島田荘司絶賛の新人ミステリー作家は、東大卒の60代元弁護士

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/28

 「稀な完成度を誇る精密機械」と選考委員の島田荘司が絶賛した本格ミステリーで、異色の新人作家がデビューした。
  
 『鬼畜の家』で第3回ばらのまち福山ミステリー文学新人賞を受賞した深木章子さんは、東大法学部卒の元弁護士。60歳でリタイヤして執筆活動を始めたという経歴の持ち主だ。
  
「老後の楽しみで始めたことですから」と謙遜するが、その作品は“六十の手習い”という安易な言葉では到底片付けられない。
  
 「書いたことは一度もなかったんですけど、ミステリーを読むのは子どもの頃から好きで。とりわけ本格ミステリーが大好きです」 デビュー作は、ある一家の凄惨な殺人事件を巡る物語。唯一生き残った少女のために事件を調査する元刑事の私立探偵が聞き込みを重ねるうちに、恐るべき真相が浮かび上がっていく――。
  
 「まずメイントリックありき。最初に物語の構造を大まかに決めて、そこにあわせて設定を決めていきました。トリックを成立しやすくする、もっとはっきり言えば読み手を騙しやすくするために、テーマや人物はその後に肉付けした感じですね」
  
 その作業は、弁護士の仕事と共通しているという。
  
 「受賞後に気づいたことなんですが。刑事も民事も基本は色んな方からお話を聞いて、それを書面にまとめるのが仕事ですから。もっとも弁護士は、こうだったらいいな、なんて勝手に書けませんけどね(笑)」
  
 ラストに待ち受ける驚愕の結末とは? 「今後も本格ミステリー以外を書く気はありません」とキッパリ宣言する熟練の新人作家との知恵比べを、ぜひ楽しみたい。
  
(ダ・ヴィンチ8月号 注目の新進作家より)