衝撃的なシーンに込められた思いとは? 号泣必至の話題作『良い祖母と孫の話』加藤片さんインタビュー

マンガ

公開日:2016/5/12

 いま、ひとつのwebマンガが大きな注目を集めている。無料マンガサイト「電脳マヴォ」にて全4話の短編作品として公開された『良い祖母と孫の話』(加藤 片)だ。祖母と孫との関係に主眼を置いた本作は、そのタイトルを裏切るような衝撃的な内容で話題となった。そこで今回は、著者である加藤 片さんにインタビューを敢行。執筆の動機や今後の目標などを語っていただいた。

衝撃的なシーンが生まれた背景

 本作は元々、とあるマンガコンクールに落選した、16ページの作品が原型だった。陽の目を見なかったその作品をネット上で公開したところ、加藤さん自身も驚くほどの反響があったそうだ。そして、リメイクしたものを電脳マヴォで連載することになった。



 オリジナル版、リメイク版ともに、読者に衝撃を与えたのは、このシーンだろう。主人公である女子高生・しょう子が、祖母の手作り弁当をトイレに流してしまうのだ。その後、しょう子は何くわぬ顔で友人たちの元へと戻る。そして祖母にも、「お弁当おいしかったよ」と笑顔を見せるのだ。

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加藤 片さん(以下、加藤)「しょう子は、周囲に本心を隠して上辺だけで付き合ってるんです。友人に対しても祖母に対しても。それって、みんな大なり小なりあるはずで、良いこととも悪いこととも言い切れない。ただ、ずっとそういうことを続けていくとどうなるのかな?っていう疑問があって、それを描いてみたんです」

 そんなしょう子の行動は、ある時、祖母にバレてしまう。自分が毎朝作る弁当が捨てられていた。その事実は、祖母の心に深い傷をつけただろう。そして、祖母はやがて認知症を発症してしまう。その描写は非常にリアルで、祖母の心情を思うと胸が痛む。

加藤「学生時代、介護施設にボランティアで訪れたことがあって、衝撃を受けたんです。かなり認知症が進んでいる方がいたんですけど、足腰は丈夫だから施設内をとにかく歩き回っていて。掲示物を剥がしてしまったり、施設内のものを壊してしまったりして、ほかの入居者からも邪魔者扱いされてたんです。若い頃はしっかりしたお母さんで、畑仕事なんかもずっとやっていたみたいなので、なおさら居た堪れない気持ちになってしまって。その体験が反映されているかもしれないですね」



 本心をさらけ出せない少女と、現実がわからなくなってしまった祖母。会話もままならなくなってしまったふたり。そのまま気持ちが通い合うこともなく、関係は希薄なまま離れていくと思いきや、ラストシーンはその予想を裏切るほど爽快でやさしさに溢れている。

加藤「最終的に、祖母と孫がひとりの人間同士で対等な関係になれた、ということが描きたかったんです。最終話が公開された時に、『最後まで読んで号泣した』という声が多くて、ちゃんと自分の意図が伝わったんだなってうれしくなりました。描いているうちに、本当におもしろいマンガなのかどうかわからなくなってくるんです。だからそういうフレッシュな反応があると、間違ってなかったのかなって安心しますね」

注目のマンガ家の原点に迫る

 祖母と孫という極小のコミュニティに焦点を当て、心情を巧みに描き切った加藤さん。新進気鋭のマンガ家の原点は、意外にもファンタジーだったのだとか。

加藤「幼稚園の頃から『美少女戦士セーラームーン』が好きで、その模写を始めたのが最初。そこから徐々に少年マンガにも興味が移っていって、『シャーマンキング』や『鋼の錬金術師』も読んでました。だから、10代の頃はそういうファンタジーとかアクションが描きたかったんですけど、どうしてもうまく描けなくて挫折感を味わったんです」

 そんな加藤さんが、よりリアルな日常を題材にすることのおもしろさに気づかされたのは、映画『カラフル』がきっかけだったという。

加藤「人生をやり直すために中学生に生まれ変わった男の子が主人公なんですけど、とにかくテーマがリアルだったんです。ファンタジーの世界に沿わなくても、リアルな題材で魅せられるということに感動して。それで、身近な問題をテーマに描いてみようと決意したんです」

 そうして描いたものが、冒頭でも解説した本作の原型になったもの。しかし、こうして大きな話題を集めたいまでも、加藤さんは自身を客観視している。

加藤「今回、たまたま大勢の方に読んでいただきましたけど、まだ実力は伴っていないと思ってます。狙って出せたわけでもないし、そこはプロと違うかなって。だから、マンガに専念したいという気持ちもあるんですけど、まだ専業作家にはならず、会社員を続けながら描いていこうと思ってます。もちろん、それは社会勉強のため、という意味もありますね」

 とはいえ、ネット上の反応だけではなく、身近な人たちから「読んだよ」と言われることも増え、手応えも感じているそう。ではここで、気になる次回作について聞いてみると……。

加藤「一応以前から温めていたストーリーがあるんです。世界観はリアルなんですけど、『良い祖母と孫の話』よりもポップで、もっとキャラクターがいきいきと動くような内容になる予定です。早くみなさんにお見せできるようにがんばります!」

 これは楽しみ! 新人作家ながら、大勢の読者を涙させた加藤さん。次はどんな作品を描き上げてくれるのか、いまから首を長くして待つことにしよう。

文=五十嵐 大