吸血鬼が闇に紛れて暮らす、東京。注目のヴァンパイアミステリー&アクション『デッド・オア・ヴァンパイア』

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/15


『デッド・オア・ヴァンパイア』(瑠奈璃亜:イラスト/KADOKAWA)

いつか憧れた揺るぎないヒーロー像とハードな人間ドラマを送り出す小説レーベル「ノベルゼロ」。今回取り上げるのは、スズキヒサシ著『デッド・オア・ヴァンパイア』(瑠奈璃亜:イラスト/KADOKAWA)だ。

東京だけでも一千人以上のヴァンパイアが人間に紛れて暮らす、現代の日本。ヴァンパイアは超人的な力と吸血衝動を持つ危険な存在であるが、その数は人間に比べて圧倒的に少なく犯罪もそれほど多くないためか、脅威を意識して生活している人間は少なかった。ところが、ある女子校で32名の生徒がヴァンパイアの犠牲となる事件が発生。ヴァンパイアハンターの高野麻績(たかの・おみ)は、警視庁特殊対策捜査係、通称「特対」から捜査協力を依頼され、集団怪死事件の謎に迫っていく。

主人公の麻績は、両親を殺したヴァンパイアを絶対的な敵だと認識し、彼らを駆除するためならばどこまでも非情になれる冷酷無比な復讐者だ。ヴァンパイアが人間の力を遙かに凌駕していようがけっして心を動かすことなく、ヴァンパイアの特性を理解したトリッキーな戦い方で憎悪の対象を次々と屠っていく。揺るぎない信念とどこまでもクールな戦いぶりには、とにかく痺れるばかりだ。

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そんな麻績には、ヴァンパイアの殲滅という大きな目的以外にもう一つ目的があった。それは、かつて自分に想いを寄せ、ヴァンパイアと人間の混血種ダンピールを生んだ女ヴァンパイアを探すことだった。

まもなく9歳を迎える麻績の息子、千里(せんり)はダンピールだった。ダンピールは吸血衝動もなければ、見た目も身体能力も人間と変わらない。さらに一定の条件を満たしさえすれば、人間とまったく同じ社会生活を送ることができる。しかし、一度でも人間の血を口にすれば本能が目覚め、完全にヴァンパイア化するという不安定な存在だ。当然、麻績にとってダンピールも憎悪の対象であり、それは息子も例外ではない。麻績は千里もいずれヴァンパイアになると自分に言い聞かせ、一切の愛情を向けず家庭内でもずっと距離を置いてきた。なぜ自分との間にこんな子どもを残したのかという、母親への恨み節ともとれる問いを繰り返しながら。

それでも、である。千里がヴァンパイアになったら躊躇なく殺すという覚悟を持ちながらも、ふと息子の将来を想像してしまうのだ。どんなに冷徹になろうとも、やはり父親は父親なのである。ヴァンパイアとの戦いに明け暮れる一方で、息子との距離感に苦悩し、敵の中に彼の母親を探してしまう姿は、なんとも歯がゆく、胸を締め付けられてしまう。

また、麻績は戦いの中で様々な家族のカタチを突きつけられる。一つは相棒を務めることになる新人捜査員にしてダンピールの甲坂心(こうさか・こころ)の存在だ。彼女の「人間としての」まっすぐな生き方は、ダンピールを息子に持つ父親に大きな影響を与えていく。もう一つは、血脈に縛られるヴァンパイアの共同体だ。まさに家族そのものの繋がりを持つヴァンパイアの愛は、時に人間よりも人間臭く見える。

大きな謎に向かっていく中で親と子、父と母という縦軸と横軸が複雑に絡み合っていく本書は、サスペンスアクションの体をなした家族の物語といえるだろう。

文=岩倉大輔