2つの事件に隠された陰謀とは? 「大きなシステム」に翻弄されながらも、男たちは己の信念を貫いていく――

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/15


『個人と国家 人魔調停局 捜査File.02』( 天野 英:イラスト/KADOKAWA)

いつか憧れた揺るぎないヒーロー像とハードな人間ドラマを送り出す小説レーベル「ノベルゼロ」。今回取り上げるのは、扇 友太著『個人と国家 人魔調停局 捜査File.02』(天野 英:イラスト/KADOKAWA)だ。

「人魔調停局 捜査File」シリーズ、待望の最新刊だ。本シリーズは、人間と魔物が共存し、銃と魔法が飛び交う社会を舞台にしたハードボイルドサスペンス。人魔間の軋轢を処理し共存維持を使命とする人魔調停局の若手実働官ライル・アングレーが、クリアト連邦共和国ロザント市で繰り広げられる陰謀に立ち向かっていく。

今回、ライルが捜査するのは2つの事件である。1つはベイグラントと呼ばれる不法移民の魔物たちが起こした連続暴走事件。そして、もう1つはテロリスト集団【新月の刃】の密入国事件だ。

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ライルは両事件を追う中で否応なく国家が抱える問題に直面していく。それは、「大きなシステム」とそれに翻弄される「個」の絶望と怒りだ。望むと望まざるとにかかわらず人魔社会から疎外され続けるベイグラントと、大国の利権争いに翻弄され復讐に燃える元傭兵のテロリストたちは、国家を揺るがす火薬となっていた。

サブタイトルの『個人と国家』が示すように、本書は我々の世界が孕む問題をカリカチュアライズした内容として読むことができる。しかし、そういった問題提起に終始しているわけではない。土台にはしっかりとしたエンターテインメントがあり、驚くような権謀術数と手に汗握るド派手なバトルがたっぷりつまっているのだ。

権謀術数とは、つまるところ狐と狸の化かし合いである。一体、両事件の黒幕は誰なのか。ベイグラントや【新月の刃】はもちろんのこと、クリアトの情報機関や敵国の軍部といった一筋縄ではいかない集団が入り乱れ、ライルはもちろん読者をも巧妙にたぶらかしていく。そんな中から要注意人物を一人挙げるとすれば、【新月の刃】の司令官ヴォルフだろう。彼は国家のために戦うライルの対極として、国家への復讐心を抱える人物として描かれる。仲間を奪われ、尊厳を奪われた男の覚悟は悲しくも力強く、ライルにも大きな爪痕を残していく。

バトル面では、ライルとそのパートナーとなる烏天狗の女性実働官カエデが大活躍を見せる。空を駆けながら繰り広げるカエデの大立ち回りは、爽快の一言。日常で見せる姉御肌っぷりも気持ちいい。一方のライルは魔物よりもずっと弱い人間でありながらも、けっして挫けない強い精神力とユニークな発想で今回もあらゆる敵に対峙していく。2人の息の合ったコンビネーションはバトルでも日常でも大いに楽しむことができるだろう。

さて、前作を知る読者からすれば、クーベルネとアルミスは一体どうなったと気が気でないかと思う。まずクーベルネは、じゃじゃ馬だった前作から一変、今作ではライルを支える健気な女の子になっている。その変化に疑問を持ちながらも距離感を掴めないでいるライルは、まるで子どもとの関係に苦悩する父親のようで、見ていて微笑ましくなってくる。そしてアルミスはというと、前作以上に切れ味抜群の変態っぷりを見せてくれるので、そこは安心してほしい!?

文=岩倉大輔

●『竜と正義 人魔調停局 捜査File.01』レビュー
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