絵はカワイイのに憎たらしい…WEB発マンガ『ウサギコットン100%』の不思議なシュールさに虜になる!

マンガ

公開日:2016/6/1


『ウサギコットン100%』(TONO/白泉社)

 彼方立てれば此方が立たぬ、とはよくいったもので、どんなに素敵な人にもなにかひとつは欠点があり、これさえなければと思っても、その欠点が失われれば“素敵さ”もなくなってしまったりする。……ということなのかどうかはわからないが、そんな人間のわがままな欲望と現実をファンタジックに映し出したマンガがある。『ウサギコットン100%』(TONO/白泉社)。巻末には「絵はカワイイのに よくもまぁこんな話を」と正直に書かれた、不思議なシュールさに満ちた作品だ。

 若く美しく夜の営みも最高、だけどすぐに汚れて垢まみれになってしまう女。お腹に魚を飼って、どれだけ食べても太らない美しいプロポーションを手に入れたけれど、かわりにいつも生臭いから結局モテない女。生花を頭にはやした少女は最強にかわいいけれど、顔から根っこが生えるし虫が寄る。……うーん、どれもいやだ。だけど彼女たちが魅力にあふれているのも確かで、読んでいると奇妙に愛くるしいから戸惑ってしまう。

 そして本書最大の主役はタイトルにもある「コットン100%のウサギ」。つまり、ぬいぐるみなのだが、これがまあ絶妙にかわいくない。いや、もしかしたらぶさかわいいというのはこういうことをいうのかもしれないけれど、本人は自分が200%かわいいと信じているし、「これだけかわいく生まれたからには かわいい女の子にだっこされてほおずりされなければおさまらない」と並々ならぬ野望を抱いているし、「かわいくないものを食べるな! ホルモンや餃子なんてもってのほかだ!」とわがまま放題(ちなみにリアルにしゃべって動きまわる)。自分にふさわしくないかわいがられ方をすれば相手に口内炎をいくつもおわせるという呪いっぷり。性格もかわいくない。……でもなんでだろう。読んでいるとどんどんかわいらしく見えてくる。腹立たしいし、にくたらしいのに、癇癪おこして泣きわめく姿が妙にいじましい。

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 そんなウサギ、人形供養をひきうける阿闍梨につれられ、呪いの人形たちにかこまれ暮らすことになるのだが、この先輩方がまた個性的。何百年という年季の入った日本人形とフランス人形はウサギの比でなく腹黒い。だが、どうやって人間を呪うのがベストか話していたり、恨みつらみをぶちまけていたりはするものの、どこかあっけらかんとしていていっそ清々しささえ感じられるから不思議だ。

 人形供養といえば京都では宝鏡寺が有名だけど、もしかしてその内側ではこんなふうに古今東西さまざまな来し方を持つ人形たちが喧々諤々と騒いでいるのかな……それを阿闍梨たちは頭を抱えて見守っていたりするのかな……と想像すると、不謹慎にもちょっと楽しくてわくわくしてしまう。

 どういうことなんだこのマンガは……と思いつつ、気づけば何度も繰り返し読みふけっていた私はもしかしたら人形たちの呪いにとっくにかかっているのかもしれない。

文=立花もも