決してネタではない!NMB48須藤凜々花の本気の哲学書。「処女宣言」についても赤裸々に明かす!

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更新日:2016/6/8


『人生を危険にさらせ!』(須藤凜々花、堀内進之介/幻冬舎)

 アイドルだって、哲学する──秋元康。帯のこんな一文が目を引く『人生を危険にさらせ!』(須藤凜々花、堀内進之介/幻冬舎)。これまでいろんな手法でアイドルプロデュースを行ってきた秋元氏にとっても、哲学との組み合わせはおそらく、浮かびようのない構図だっただろう。

 それだけに「夢は哲学者になること」を公言するNMB48の人気アイドル、須藤凜々花氏の存在は、新鮮かつ唯一無二に思えたに違いない。そして須藤氏の哲学好きは、本書を読む限り、決してネタなどではなさそうだ。まさに本気度100%、本書は須藤氏の“哲学love”が詰まった一冊だ。帯には須藤氏からのこんな言葉も記されている。

拝啓、ニーチェ先輩、「生きる」「愛する」「自由になる」「正義(ただ)しい」「大人になる」ということについて、とことん考えました。帯より引用

 まさにこれが本書の内容である。ちなみにドイツの哲学者フリードリヒ・ニーチェ(1844-1900)は、須藤氏が一番敬愛する人物で、本書タイトルにはニーチェの言葉「人生を危険にさらせ!」がそのまま使われた。

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 では各テーマをどう須藤氏はとことん考えるのかというと、共著者である堀内進之介氏(政治社会学者)が個人教授となり、須藤氏に思考するためのヒント(哲学者の言葉・著書や現代のアニメ、映画など)を与えるというスタイルをとっている。

 例えば、第2章「愛するということ」のくだりの一部を紹介しよう。

 堀内先生が恋愛を考察するために引用したひとつに、ジャン=リュック・ナンシーというフランスの哲学者の言葉がある。

わたしたちは、人を愛するとき、その人の唯一性にとらわれる

 次いで先生は、唯一性とはその人の属性(外見的なルックス、財産・社会的地位など)以外の本質的なものであると説明し、その属性が先に立つ愛は本当の愛ではない、というナンシーの考えを伝える。そして須藤氏がこう発言する。

そっか。愛しているっていうのは、「その人じゃなきゃダメ」って言えなくちゃいけないってことですね。

 こうした哲学の知と触れ合いつつ、須藤氏はアイドルとしての自分の現実をも併せて考察していく。

わたしたちはファンに愛されようと努力するんですけど、ときどき、やっぱりちょっとそこに食い違いがでてくることってあるんですよね。

それはわたしが考えるわたしと、ファンの皆さんが愛してくださるわたしの食い違いです。

 これは須藤氏が髪をロングからショートにイメチェンしたことに対して、あるファンから「そんなのりりぽんじゃない」と言われた体験に基づく発言だ。須藤氏としては、こんな言葉に触れると、こう断言したくなるのだそうだ。

どうしても「わたしはわたし!」って言いたくなっちゃう。「ここに生きて在るわたしがわたし」って。

 本書には多くの哲学者の名前、考え方、著書などが登場し、そうした哲人たちのガイドとしても使えるがそれはメインではない。中心となるのは、それらの“知”をどう須藤氏が受け止め、あるいはどう反論し、どう思索により自分なりの哲学を導くかという、思考のプロセスを公開したものだ。

 そして哲学は単なる思考ではなく、先に引用したように、アイドルが日々の自分に重ねながら「人生において実践すべきもの」というメッセージとして提示することで、本書は他書にはないレアな哲学本としてのスタンスを得るのである。

 各章の末尾にはそれぞれ、須藤氏のコラムが添えられている。中学での試験的な哲学授業が人生を変えたこと、これまでに恋愛経験がないこと、ネットで話題になった「処女宣言」をめぐる経緯・反省など、赤裸々に自分自身を明かしている。

 さて、堀内先生も本書で疑問を提示したように、果たして須藤氏は“単なる天然ちゃん”なのか、それとも“若き天才哲学者”なのか、ぜひ、本書を読んで判断してみてほしい。

文=町田光