注目作家・海猫沢めろん、年収100万円で書いた“時給800円小説”刊行

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/28

 「家賃は3万円です。去年は本を出さなかったせいもあって、年収100万円切りましたから。ずっと小説を書いていたんですけどね。おもにこの本に入っている小説を、毎日書いたり消したりしてたんです」
  
 最新刊『ニコニコ時給800円』(集英社)を発表した気鋭の小説家・海猫沢めろんは、いきなり衝撃の事実を告げた。本作は、時給800円で働く人びとの姿をユーモアの利いたストーリーと、たっぷりのリアリティで描き出す連作短編集だ。
  
 「高校卒業した後、仕事はいっぱいやりましたね。地元でホストをやって、10円ポーカーの店員をやって、あとは地方政治家のボディーガード……。あとは鍛冶屋! RPGの話みたいですけど、ホントです(笑)。どのバイトも、時給800円ぐらいでしたね。でも、お金に困ったことがないんですよ。家賃さえやりくりできれば時給800円の仕事でもまったく問題ないっていう、自分自身がそういう感覚なんですよね」
  
 その感覚は、この小説を書くために取材した人々からも、感じられたものだという。
  
 「いろんな人に会いましたけど、“ワーキングプアで死にそうです!”って人はいなかったですね。なんとなく働いている、なんとなく生活できる、それでいちおう大丈夫っていう感覚じゃないかと思うんですよ。だけど、漠然と、生きづらいなぁとは思っていて。そういう人たちに“こういう考え方をすると、人生がちょっとラクになる”とか、“世の中は変わらないけど、人生はちょっと変る”とか。そういう提案を、この小説の中でしてみたかった。時給は安いし上がらない、何のために働いているのかもわからない。だったら“楽しむしかないないだろう!”みたいな。僕自身が今まさに、そうです(笑)。この本を書くのに2年かけてますから、時給800円どころじゃないのにですよ!」
  
 充実の取材体験だけじゃない。作家自身のさまざまなリアリティが作中に反射し、特別なバランス感覚の小説ができあがった。この一作を機に、海猫沢めろんに熱狂する人が、大挙出現することだろう。
  
(ダ・ヴィンチ9月号 今月のブックマークより)