自己犠牲に基づく究極の純愛を描いた『ヴァンパイア騎士』 満を持して、新シリーズがスタート!

マンガ

公開日:2016/6/14


『ヴァンパイア騎士(ナイト)』(樋野まつり/白泉社)

 全寮制の「黒主学園」を舞台に、人間と吸血鬼(ヴァンパイア)との共存、そして闘いを描き、全国の女子たちを胸キュンの嵐に巻き込んだ『ヴァンパイア騎士(ナイト)』(樋野まつり/白泉社)。テレビアニメ化もされ人気を博したが、2013年には連載が終了した名作である。

 本作の主人公となるのは、学園を守る役割を担う少女・黒主優姫(くろす・ゆうき)。素直だが、少しだけ頭が弱いところが玉に瑕だ。そんな優姫とともに行動する錐生零(きりゅう・ゼロ)は、ヴァンパイアハンターの家系に生まれた少年。とある過去から、ヴァンパイアを激しく憎んでいる。そして、ふたりの前に現れるのが、“純血種”のヴァンパイア・玖蘭枢(くらん・かなめ)。強大な権力を持つ玖蘭一族の当主を務める少年だ。

 物語はこの3人を中心に展開する。人間として生きてきた優姫の正体、ハンターにも関わらずヴァンパイアになってしまう零、自らの命を差し出し息絶えてしまう枢……。そこで描かれるのは、耽美で退廃的な世界だ。

advertisement

 そしてなにより大勢の読者を涙させたのは、最終回。自らの命を捨て、ヴァンパイアたちを壊滅寸前にまで追いやった枢を救うため、優姫は自身の心臓を使い、彼を永き眠りから解放させるのだ。その結果、枢は“人間”として1000年の眠りから目覚める。けれど、そこに優姫はいない。愛する人がいない世界で目覚めてしまった枢は、幸せなのかそれとも――。

 読者の中には、枢のその後や、彼が眠りに就いていた1000年の間になにが起こっていたのかが気になって仕方ない人もいるだろう。ここで朗報がある。なんと、シリーズ最新作が誕生したのである。それが『ヴァンパイア騎士(ナイト)memories』(樋野まつり/白泉社)だ。

 枢が眠っている間、優姫や零の身になにが起こっていたのか。彼らはどんな悲劇を経験したのか。そして、ヴァンパイアを人間に変える方法は、どのように発見されたのか。この新シリーズでは、これらの真実が一つひとつ紐解かれることになる。

 とはいえ、優姫や零が死に、後に枢だけが残されるという現実は変わらない。終わりを見据えて走りだした物語の終着点で待つのは、哀しみか、それともまた別の感情なのか。それはいずれにしても、読み手の心をぐらぐらと揺さぶるだろう。不朽の名作は、期待値をはるかに超えて復活したと言えそうだ。

 長きに渡って描かれてきた、人間とヴァンパイアとの物語。その最終章は、まだ始まったばかりである。

文=五十嵐 大